工務店の顧客管理は、紙の台帳、Excel、個人のスマホ、LINE、名刺箱などに情報が散らばりやすいです。その結果、担当者が休むと対応が止まり、問い合わせの返し漏れや、見積もり提出の遅れ、OB客フォローの抜けが起きます。
さらに厄介なのが「誰が」「いつまでに」「何を」するかの判断が曖昧なまま、現場と事務が忙しさで流される状態です。現場が躓くポイントは、入力ルールが無いままシステムだけ導入して、結局使われなくなることです。
IT導入補助金を使えば、導入費用の負担を抑えながら、顧客管理を仕組み化できます。ただし補助金には「対象になる経費」「やってはいけない運用」「申請で落ちやすいポイント」があり、ここを押さえず進めると時間だけ溶けます。

顧客情報はExcelにあるけど、履歴が追えなくて折り返し漏れが出ます。CRMって何から決めればいいですか。



補助金を使いたいけど、申請の準備が面倒そうです。現場が止まらない段取りで進めたいです。
この記事では「CRM導入の判断軸」「IT導入補助金の進め方」「導入後に定着させる運用ルール」までを、工務店の実務に落として整理します
工務店が顧客管理で損をしやすい原因とCRM導入のゴール


顧客管理システム(CRM)は、顧客情報と対応履歴を一元管理し、次にやるべき行動を見える化する仕組みです。つまり「情報の保管庫」ではなく「次のアクションを遅らせない装置」として使うのが本筋です。
工務店の実務シーンでは、資料請求、現地調査、見積もり、契約、着工、引き渡し、点検、OB紹介まで、接点が長期にわたります。ここで履歴が追えないと、提案の質が落ち、担当者の勘頼りになります。属人化が進むほど、売上は「個人の頑張り」に依存し、採用や引き継ぎのコストが膨らみます。
導入のゴールは「追客の抜けゼロ」と「次の打ち手が見える状態」
CRM導入のゴールは、入力が綺麗なデータベースを作ることではありません。ゴールは、問い合わせから商談までの対応を遅らせず、見込み客の温度感に合わせた連絡を継続できる状態です。
- 問い合わせから初回連絡までの時間を短縮する
- 見積もり提出日と次回連絡日を必ず登録し、抜けを防ぐ
- OB客の点検・紹介依頼を定期アクションとして回す
- 担当者が変わっても履歴が追える
改善のコツは、最初から全業務を入れようとせず、まず「問い合わせ〜契約」など短い範囲で効果が出る工程に絞ることです。運用イメージとしては、毎日10分だけ「今日の対応一覧」をCRMで確認し、次回アクションを必ず入れる運用から始めましょう。
失敗しやすいのは「システム先行」で入力ルールが無い状態
失敗パターンは、便利そうなシステムを契約し、現場に配って終わる形です。入力者の負担が増え、見返りが見えないと使われません。特に工務店は、現場監督や営業が移動時間に入力することが多いので、スマホで入力できない、入力項目が多すぎる、といった要因で止まります。
判断軸は「入力の手間が増える分、何が減るか」を明確にすることです。例えば、折り返し漏れが減る、見積もり提出のリマインドが自動化できる、紹介依頼のDMをルール化できる、など削減できる手間を先に定義しましょう。
CRM導入の判断軸は「抜けを防ぐ仕組みが回るか」「入力負担より削減できる手間が大きいか」です
IT導入補助金でCRMを入れる前に押さえる前提と対象範囲
IT導入補助金は、登録されたITツールと支援事業者(IT導入支援事業者)を通じて導入することが原則です。つまり、現場が勝手に選んだツールを後から補助金で落とすことはできないケースが多いです。申請は「導入前」に行い、交付決定前に契約や支払いをすると対象外になりやすいので注意しましょう。
専門用語の交付決定は、補助金を使ってよいと認められる公式の承認です。交付決定の前に動くと、補助対象にならないリスクが上がります。
「できること/できないこと」を先に線引きする
現場が混乱しやすいのは、補助金でできる範囲と、社内作業でやる範囲が混ざることです。特にCRM導入は、ツール費用だけでなく、初期設定やデータ移行、運用設計が絡みます。下の表で線引きしましょう。
| 項目 | 補助対象になりやすい | 補助対象外になりやすい |
|---|---|---|
| CRMツール利用料 | 支援事業者経由で登録ツールを契約 | 個人契約や未登録ツールの直接契約 |
| 初期設定 | 支援事業者の導入支援として申請範囲に含める | 社内の人件費として計上する考え |
| データ移行 | 移行作業を支援役務として見積に含める | 移行元データが未整備で、作業内容が曖昧 |
| 運用ルール策定 | 支援事業者の伴走支援として整理する | 「使い方は現場で考える」など成果物が無い |
| ハード購入 | 枠や類型により対象になる場合がある | 補助対象外のケースも多く、要確認 |
申請で落ちやすいのは「目的が曖昧」「業務プロセスが書けない」
申請でつまずくポイントは、導入目的が「便利そうだから」になっていることです。工務店の実務に落とすなら、例えば「問い合わせ対応の初動を短縮し、追客漏れを防ぎ、商談化率を上げる」など、業務プロセスと成果をセットで書く必要があります。
改善のコツは、現状の流れを「誰が」「どの媒体で」「何を」「いつ」やっているか、1枚で説明できる形にすることです。運用イメージとしては、申請前に30分だけ関係者で棚卸しMTGを行い、現状→理想→ギャップを埋める機能を決めましょう。
CRM選定の判断軸|工務店で本当に使われる要件の決め方


CRM選定は機能比較よりも、運用が回るかどうかで決まります。工務店の現場では、入力者が営業・現場監督・事務に分かれ、入力のタイミングがバラバラです。ここを前提に要件を決めましょう。
専門用語の要件定義は、必要な機能と運用ルールを文章で決めて、社内外で合意することです。要件定義が無いと、導入後の手戻りが増えます。
最初に決めるべきは「管理したい案件の単位」と「必須入力」
工務店でよくある混乱は、顧客単位で見るのか、案件単位で見るのかが決まっていないことです。例えばOB客が2回リフォームする場合、顧客は同じでも案件は別です。どちらを主に管理するかで設計が変わります。
- 案件単位で管理する:現地調査〜見積〜契約〜工事の進捗が追いやすい
- 顧客単位で管理する:OBフォローや紹介の履歴が追いやすい
- 必須入力は3〜5項目に絞る:担当、案件種別、ステータス、次回アクション日など
失敗しやすいポイントは、最初から入力項目を増やしすぎることです。改善のコツは「見積提出日」「次回連絡日」など、抜けが売上に直結する項目を最優先にすることです。運用イメージとしては、入力は営業が主、事務はチェック、経営者はダッシュボード確認に役割分担します。
現場で使われるUI条件は「スマホ入力」「検索」「共有」が揃うこと
工務店では、現場帰りに車中で入力する、事務が電話対応しながら検索する、代表が外出先で状況確認する、といった場面が多いです。このため、スマホでの入力性と検索性が弱いと定着しません。
- スマホから1分で「次回アクション日」だけでも更新できる
- 電話番号で即検索でき、対応履歴が時系列で見える
- 写真・図面・見積PDFを案件に紐づけて共有できる
- 権限設定で「見せる情報」と「編集できる情報」を分けられる
判断軸は、体験アカウントで「入力にかかる秒数」を測ることです。現場で30秒以内に更新できる形に寄せると運用が回ります。
CRM要件定義テンプレ(最初のたたき台)
1. 管理単位:顧客/案件(どちらを主にするか)
2. 必須入力(3〜5個):担当者、案件種別、ステータス、次回アクション日、見積提出日
3. 共有したい情報:見積、図面、現場写真、打ち合わせメモ
4. 入力タイミング:電話後、現調後、見積提出後、契約後、引き渡し後
5. 見たい指標:問い合わせ件数、商談数、見積提出数、契約数、未対応一覧
CRM選定は機能の多さではなく「必須入力が絞れて、スマホで更新でき、検索が速いか」で決めましょう
申請準備の実務手順|現状整理から見積依頼までを止めずに回す
IT導入補助金を使う場合、申請書類の作り込みと、支援事業者とのやり取りが発生します。ここで現場が止まると反発が出るので、タスクを分割して短時間で回す設計にします。
工務店の実務シーンでは、日中は現場と商談で埋まりがちです。そこで「棚卸し30分」「要件確認30分」「見積確認30分」のように、短い枠で区切って進めると回ります。
現状棚卸しは「情報の置き場」と「抜けの発生点」を洗い出す
申請の説得力を上げるには、現状の課題を具体的に書ける状態が必要です。失敗しやすいのは「忙しい」「属人化している」だけで終わることです。例えば「問い合わせの折り返し漏れが月に何件」「見積提出の遅れが何件」など、発生点を言語化しましょう。
現状ヒアリング項目テンプレ(30分で回す)
1. 問い合わせ窓口:電話/フォーム/SNS/紹介
2. 情報の保管先:Excel、紙、LINE、個人スマホ、メール
3. 抜けが起きる場面:折り返し、現調日程、見積提出、追客、OB点検
4. 誰が困るか:営業、事務、代表、現場監督
5. 月の発生件数:折り返し漏れ、連絡遅れ、二重対応
見積依頼は「導入範囲」と「成果物」を明記して手戻りを防ぐ
見積の手戻りが多いのは、ベンダー(提供会社)側が「どこまでやるか」を想定できないためです。ベンダーは、システム提供や設定支援を行う外部事業者です。導入範囲と成果物を明記すると、比較しやすくなります。
ここでは「本文+箇条書き+補足解説」の形で、見積依頼に必要な要素を整理します。
- 導入対象:問い合わせ管理、案件管理、OBフォローのどこまでか
- 初期設定:ステータス設計、入力項目、担当割り当て
- 移行:既存Excelの項目マッピング、移行件数
- 教育:操作説明の回数、マニュアルの有無
- 運用支援:1〜2か月の伴走、改善提案の有無
補足解説として、見積比較は金額だけでなく「成果物の差」を見ます。例えば、同じ初期設定でも、ステータスの設計案が付くか、入力ルールのドラフトが付くかで定着率が変わります。運用イメージとしては、代表か責任者が窓口になり、週1回15分の確認で論点を潰していきましょう。
見積依頼文テンプレ(そのままコピペ)
目的:問い合わせ〜契約までの追客漏れ防止と対応スピード改善
対象範囲:案件管理(問い合わせ登録〜見積提出〜契約)を優先、OBフォローは第2段階
希望する成果物:ステータス設計案、必須入力項目案、運用ルールドラフト、初期設定、データ移行(Excel◯件)、操作説明(◯回)
現状課題:折り返し漏れが月◯件、見積提出遅れが月◯件、履歴が担当者に偏る
制約:現場の入力はスマホ中心、必須入力は5項目以内にしたい
導入後に定着させる運用設計|入力・確認・改善の回し方


CRMは導入して終わりではなく、導入直後の1〜2か月で定着が決まります。ここで入力が止まると、データが欠けて信用が落ち、誰も見なくなります。定着のコツは「入力させる」ではなく「見れば得をする状態」を作ることです。
工務店の実務シーンに合わせるなら、朝礼前、終礼後、移動時間など、短時間で回せるリズムに落とし込みます。失敗しやすいポイントは、毎週1時間の会議にしてしまい、忙しさで消えることです。
入力ルールは「誰がどこまで」を固定し、例外を減らす
入力の分担が曖昧だと「誰かが入れるだろう」になり抜けます。判断軸は、情報の発生源に近い人が最小入力をし、事務が整える役割にすることです。
運用ルールテンプレ(社内共有用)
1. 問い合わせ登録:受付した人が当日中に登録(必須:氏名/電話/案件種別/担当/次回アクション日)
2. 次回アクション:電話・訪問・見積提出の直後に必ず更新(未設定は禁止)
3. 事務チェック:毎営業日16時に「未対応一覧」を確認し、担当へ連絡
4. 代表確認:週1回10分で「商談化・見積提出・契約の件数」を確認
5. 添付の命名:見積・図面は「日付_案件名_種類」で統一
定着の仕掛けは「毎日見る画面」を1つ決める
現場がCRMを見る理由が無いと、入力は続きません。そこで、毎日見る画面を1つ決めます。例えば「今日連絡すべき顧客一覧」「見積提出予定一覧」などです。見ることで手戻りが減る体験が出ると、自然に使われます。
- 日次:未対応一覧と次回アクション日が今日の案件を確認する
- 週次:ステータス別件数(問い合わせ・商談・見積・契約)を確認する
- 月次:失注理由の傾向を集計し、提案や広告の改善に使う
改善のコツは、入力のチェックを監視にしないことです。「見れば助かる」画面を共有し、更新が遅れている案件は事務がサポートして埋める形にします。運用イメージとしては、最初の1か月だけ支援事業者の伴走で微調整し、2か月目から社内だけで回る形に移します。
- 導入初週:必須入力が守れるかを確認する
- 2週目:未対応一覧の運用を回す
- 3〜4週目:ステータス設計の修正を1回だけ行う
- 2か月目:OBフォローなど第2段階の運用を追加する
社内稟議・説明で通すための整理|費用対効果の示し方
補助金を使ってCRMを入れる場合でも、社内の納得が無いと定着しません。特に現場側は「また入力が増える」と感じやすいので、削減できる手間と、増える手間を正面から示すのがコツです。
失敗しやすいポイントは、費用対効果を売上増だけで語ることです。工務店では、取りこぼし防止と時間削減が先に効きます。判断軸は「折り返し漏れ」「見積遅れ」「担当変更時の引き継ぎ」を金額換算することです。
現場の反発を抑える説明は「やらないこと」を先に決める
現場が嫌がるのは、完璧な入力を求められることです。そこで「最初はこれだけ」「それ以外は後で」の線引きをします。運用イメージとしては、必須入力を守るだけでOKとし、細かいメモは事務が整える形に寄せます。
費用対効果は「削減時間」と「機会損失の回収」で組み立てる
例えば、折り返し漏れが月3件あり、そのうち1件が商談化していたなら、機会損失は大きいです。また、検索に毎回10分かかるなら、月に何時間が消えるかが出ます。こうした定量化は、経営判断を早めます。
稟議・社内説明テンプレ(要点だけで通す)
目的:追客漏れ防止と対応スピード改善、担当変更時の引き継ぎ負担削減
現状の損:折り返し漏れ 月◯件/見積遅れ 月◯件/検索・確認に月◯時間
導入後の変化:未対応一覧で抜けゼロ、次回アクション日で追客の自動化、履歴共有で引き継ぎ短縮
現場負担:必須入力は5項目のみ、入力は1分以内、細かい整理は事務が担当
費用:導入費◯円(補助金活用で自己負担◯円想定)
定着策:日次10分の確認、週次10分の共有、1か月後に項目見直し1回だけ実施
まとめ|補助金を使うCRM導入は「段取り」と「定着設計」で決まる
IT導入補助金でCRMを導入する際は、ツール選びよりも段取りが重要です。交付決定前に契約しない、登録ツールと支援事業者の枠組みで進める、導入目的を業務プロセスに落として書く、ここが崩れると申請も運用も止まります。
現場で成果を出すコツは、必須入力を絞り、毎日見る画面を決め、日次・週次の短いリズムで回すことです。導入直後に入力を増やすと失敗しやすいので、まずは「追客の抜けゼロ」を最短で達成しましょう。
補助金活用のCRM導入は「補助金の前提を守る」「要件を絞る」「定着の運用ルールを先に決める」の3点で成功率が上がります








