社内マニュアルを「動画」で自動化する方法|工務店の新人教育コストを削減し、同じ品質で仕事が回る仕組み

紙を読まない現場でも定着する動画マニュアル術。撮影設計、台本テンプレ、更新ルール、運用体制まで整理し、新人教育を仕組み化します。

新人教育が忙しい時期ほど、現場監督や工事部が「同じ説明」を何度も繰り返し、肝心の段取り・検査・発注の時間が削られます。結果として、教える人によって言い方が違い、受け取る側の理解もバラつき、ミスや手戻りが増えます。

紙のマニュアルを用意しても「読まれない」「探せない」「改定が追いつかない」が起きやすいです。特に現場が躓くポイントは、作業の順番や判断基準が頭の中にしかなく、確認が口頭に依存してしまうことです。これが属人化と教育コストの原因になります。

そこで有効なのが、スマホで見られる短い動画で「やり方」と「判断の要点」を揃える方法です。動画にすると、紙よりも「見ればわかる」状態を作りやすく、忙しい人ほど使います。

新人に口頭で教える回数が多すぎて、毎年春は現場が回りません。教える人によって言い方も違って、結局ミスが出ます。

動画にしたら作るのが大変そうです。撮影や編集ができないと無理ではないですか。

この記事では「どの業務を動画化するか」「動画の粒度と台本」「更新と権限」「現場で使われる置き場所」まで、社内で回る判断軸とゴールを整理します

目次

なぜ工務店のマニュアルは紙で形骸化するのか

Close-up of crumpled paper on table with unhappy businesswoman was frustrated. Concept of no idea to thinking

工務店のマニュアルが形骸化する一番の理由は、現場の情報が「文章より映像」に向いているのに、紙で伝えようとしている点です。例えば、養生の順番、検査の見方、写真の撮り方、施主説明の言い回しなどは、文章で読むより実物を見た方が早いです。

さらに、工務店の教育は「忙しさ」と「例外対応」が前提です。工程が詰まると教育の優先順位が落ち、口頭のついで指導になります。口頭指導は速い一方で、内容が残りません。結果として新人は「何が正解か」を自信を持って判断できず、確認が増え、先輩の負担が増えます。

現場で起きやすい失敗パターン

  • 紙のマニュアルが事務所の棚にあり、現場では見られない
  • 改定版が反映されず、古い手順で作業してしまう
  • 文章が長く、結局「先輩に聞く」が最短になる
  • 新人がどこまで理解したか把握できず、任せる判断が曖昧になる

改善のコツは「紙の弱点を直す」のではなく、「現場に合う形式に変える」ことです。動画は、スマホで再生でき、短時間で要点が伝わり、同じ説明を何度でも同じ品質で提供できます。

動画が向いている業務と向かない業務

判断軸は「目で見て理解する比率」と「手順が固定されている比率」です。例えば、撮影手順、チェックの手元、アプリ操作などは動画向きです。一方、契約条件の細かい文言や、法令の条文そのものは動画だけだと抜けが出ます。こういう内容は動画の補足として短いテキストを添えます。

運用イメージを先に決めると失敗しません

動画は作って終わりではなく、更新と閲覧の導線が命です。最初に「誰が撮るか」「誰が承認するか」「どこに置くか」「いつ見せるか」を決めると、形骸化しません。社内で回す前提で、まずは3本だけ作り、現場で実際に使ってから増やします。

紙が読まれない問題は根性では解決しません。現場が使う端末と時間に合わせ、動画+短い補足テキストで「同じ説明を残す」設計に切り替えましょう。

動画マニュアル化する業務の選び方と優先順位

動画化は全部を狙うと失敗します。最初は「教育コストが高い」「ミスが利益に直撃する」「誰が教えても内容が同じで良い」業務から着手します。工務店の実務で効果が出やすいのは、現場監督の基本動作、写真台帳、検査、顧客対応の定型説明です。

ここで重要なのは「新人が一人で完結できる状態」を作るのではなく、「新人が迷ったときに戻る場所」を作ることです。新人は例外に弱いので、例外判断は先輩に寄せつつ、基本手順は動画で揃えます。

優先度を決めるための比較表

候補業務動画化の効果失敗しやすい点先に決める運用
現場写真の撮り方・命名撮り直し削減、台帳品質が揃うフォルダルールが曖昧だと崩れる命名規則、保存場所、チェック担当
完工検査の見方是正漏れ減、手戻り減基準が口頭のままだと個人差が残る合否基準、指摘の書き方、報告先
工程会議の準備準備時間削減、抜け防止現場ごとに資料が違いすぎる標準フォーマット、提出期限
施主への定型説明説明品質の平準化、クレーム予防言い回しが人で変わるNGワード、必須説明項目

新人教育コストが大きい業務から3本に絞ります

最初の3本は「入社初月に必ず使う」「毎回同じ説明が必要」「ミスが現場のロスになる」ものを選びます。例えば、現場写真、チャット報告、検査の基本です。3本に絞ると、撮影・編集・運用の負担が現実的になり、続きます。

専門用語を動画内で必ず言い換えます

例えば「ナレッジ共有」は、社内で同じやり方を再現できるように、知識と手順を保存して配ることです。「オンボーディング」は、新人が仕事のやり方と社内ルールを覚えて独り立ちするまでの育成工程です。動画内でこの一文説明を入れると、言葉だけが独り歩きしません。

【動画化の優先順位テンプレ】
1)ミスが利益に直撃するか(手戻り、是正、クレーム)
2)同じ説明を週1回以上しているか
3)手順が固定されているか(例外は先輩判断に寄せる)
4)スマホで見れば理解できる内容か(手元、画面操作、現物)
5)更新担当を決められるか(担当が不在なら後回し)

動画化の成功は「全部やる」ではなく「3本を確実に回す」から始まります。利益に直結する業務から優先し、例外判断は無理に動画に詰め込みません。

現場で使われる動画の作り方:長編ではなく「60〜180秒」で区切ります

動画マニュアルが使われない原因は、内容ではなく尺です。10分動画は忙しい現場で再生されません。1本あたり60〜180秒で「1テーマ1動作」に絞ると、探しやすく、見直しやすくなります。編集も最小で済みます。

作り方の基本は、撮影前に台本を作り、「何を映すか」「何を言うか」「何を判断軸として伝えるか」を決めることです。台本がないと、撮影が長くなり、編集が重くなり、続きません。

動画の粒度は「検索できる単位」にします

粒度の判断は「新人が困る場面」を起点にします。例えば「現場写真の撮り方」ではなく、「玄関まわりの撮影」「配管の撮影」「養生の撮影」のように分けます。新人が困った瞬間に、該当動画へ一直線で辿り着ける状態を作ります。

ハイブリッド構成:本文+箇条書き+補足解説で台本を作ります

台本は難しく作りません。まず本文で「目的と結論」を一段落で書き、次に箇条書きで「手順」を並べ、最後に補足解説で「失敗しやすい点」と「判断軸」を添えます。この形にすると、撮影内容がブレず、教育の要点も残ります。

  • 本文:この作業は何のためにやるか(品質、保証、段取り)
  • 箇条書き:手順を5〜7個で固定する
  • 補足解説:新人が間違えやすいポイントと、迷ったときの判断軸を書く

補足解説は動画内で言い切ります。例えば「写真が暗いと指摘が伝わらず、是正漏れになります。逆光は避けて、手元の影が入らない角度にしましょう」のように、理由と行動をセットで伝えます。

撮影はスマホ縦でも成立します

撮影機材にこだわる必要はありません。現場で見るのはスマホなので、スマホで撮ってスマホで見る前提の方がズレません。画面操作は録画機能、手元作業はスマホカメラで十分です。音声が聞き取りづらい場合だけ、イヤホンマイクを追加します。

【60〜180秒動画 台本テンプレ】
タイトル:◯◯の手順(新人向け)
目的:この作業で防ぐトラブルは何か(例:是正漏れ、撮り直し)
手順:1)〜 2)〜 3)〜 4)〜 5)〜
判断軸:迷ったら◯◯を優先する(例:保証、施工基準、写真の読みやすさ)
よくあるミス:◯◯をすると××が起きる
最後の一言:完了したら報告先と提出物を確認する

【撮影チェックリスト(チェック用途)】
・冒頭で「目的」を1文で言った
・手順は5〜7個に収めた
・手元と対象物が画面の中心に入っている
・暗所や逆光で見えにくくない
・最後に「報告先」「保存場所」を言った

動画は長さより「探しやすさ」が価値です。60〜180秒で分割し、台本をハイブリッド構成にして撮影のブレと編集負担を消しましょう。

置き場所と検索性の設計:見つからない動画は存在しないのと同じです

Searching information data on internet networking concept. Hand of male typing text on laptop keyboard

動画マニュアルは「どこにあるか」が決まらないと使われません。共有ドライブ、社内チャット、タスク管理ツールなど、候補は色々ありますが、最優先は検索性です。検索できないと、結局また先輩に聞きます。

ここでの失敗ポイントは、保管場所が複数になり、最新版が分からなくなることです。置き場所は1か所に統一し、リンクを各所に貼る運用にします。動画そのものを複製しない方が改定が楽です。

フォルダ設計は「業務→工程→担当」で揃えます

フォルダ設計は、現場が探す言葉に合わせます。例えば「現場監督」「工事」「品質」「顧客対応」「バックオフィス」など、社内で普段使う分類を先に置きます。その下に「工程」や「頻度」を置くと、迷いません。

タイトル命名で検索ヒット率が決まります

動画タイトルは「新人が検索する単語」で始めます。例えば「完工検査」は新人に通じない場合があります。その場合は「引き渡し前のチェック」「傷の見つけ方」のように言い換え、括弧で正式名称を添えます。これで検索と教育の両方が成立します。

社内チャットへの共有文を固定すると定着します

運用イメージとして、新人が困りやすいタイミング(配属初日、現場同行の前日、検査の前)で、動画リンクをチャットに流す仕組みにします。毎回文章を考えると続かないので、共有文のテンプレを固定します。

【動画タイトル命名ルール テンプレ】
先頭:新人が検索する言葉(例:写真、検査、報告、段取り)
内容:対象+動作(例:配管まわりの写真を撮る)
補足:正式名称を括弧で(例:(完工検査))
末尾:所要時間(例:2分)
例:写真|配管まわりの撮影(現場写真ルール)2分

【チャット共有テンプレ(コピペ用)】
新人向けに動画を共有します。
目的:◯◯のミスを防ぐためです。
見るタイミング:◯◯の前(例:現場入り前、検査前)
視聴後の行動:分からない点をこのスレッドに1つ書いてください。
動画:URL(保管場所はここに統一)

動画の価値は内容より導線です。置き場所は1か所に統一し、命名ルールとチャット共有テンプレで「探せる・使える」状態を固定しましょう。

更新と権限のルール:改定されないマニュアルは事故の温床です

動画マニュアルで必ず起きるのが「内容が古くなる」問題です。やり方が変わったのに古い動画が残ると、新人は古い手順で作業し、先輩が後から直すことになります。これは教育コストではなく事故コストです。

失敗しやすいポイントは、更新担当が曖昧なことです。「気づいた人が直す」は実務では起きません。更新は役割として割り当て、承認ルールと改定のタイミングを決めます。ここまで決めると、動画が資産になります。

更新ルールは月1回の棚卸しで十分です

毎週更新を狙うと続きません。月1回、各部署の代表が10分だけ動画一覧を見て「現状とズレているもの」をチェックします。ズレの判定は「現場での手順が変わったか」「提出物の保存先が変わったか」「判断基準が追加されたか」で判断します。

改定の方法は「撮り直し」ではなく「差し替え」を前提にします

動画を撮り直す負担が大きいと止まります。最初から短尺にしておくと、変更がある部分だけ差し替えできます。差し替え前提の設計が、動画運用を現実的にします。

専門用語:版管理は「どれが最新版かを番号で管理すること」です

版管理は、動画にv1、v2のように版番号を付け、最新版が一目で分かるようにする管理方法です。版番号と更新日をタイトルか概要欄に入れると、現場で迷いません。

【更新・承認ルール テンプレ】
更新提案者:気づいた人(現場・事務どちらでも可)
更新担当:各カテゴリの責任者(例:現場監督、工事、バックオフィス)
承認者:部門長または品質責任者
棚卸し:毎月第1週に10分(一覧確認)
版番号:v1から開始、変更時はv2へ
旧版:アーカイブへ移動し、検索対象から外す

更新担当と承認ルールが曖昧なまま動画を増やすと、古い手順が残り事故が増えます。短尺・差し替え前提・月1棚卸しで運用を固定しましょう。

導入ステップ:まずは新人の「初月」を動画で支えます

導入は大掛かりに始めない方が成功します。おすすめは「新人の初月に必要な3本」から作り、実際に新人に使ってもらい、現場側の負担が下がったかで評価します。評価が良ければ、次の3本を追加します。

工務店の実務シーンで効くのは、初月に必ず通る業務です。例えば、現場報告の型、写真の保存、工程前の準備、検査の基本などです。ここが揃うと、先輩の「確認の回数」が減ります。

失敗しない導入の順番

  • 1週目:動画化する業務を3つ選び、台本テンプレで要点を揃える
  • 2週目:短尺で撮影し、置き場所と命名ルールを決めて公開する
  • 3週目:新人に「視聴→質問1つ投稿」を必須にして運用を回す
  • 4週目:現場側の負担(説明回数、手戻り)を振り返り、次の3本を決める

教育の効果測定は「説明回数」と「手戻り」で見ます

効果測定は難しくしません。現場で実感しやすい指標に絞ります。例えば「新人に同じ説明をした回数が減ったか」「写真の撮り直しが減ったか」「検査指摘の書き方が揃ったか」です。数字が取れない場合でも、週次で口頭でメモするだけで十分です。

社内で回すための役割分担を決めます

役割分担を決めないと、結局一人が抱えて止まります。撮影者は現場のベテランでなくても構いません。手順が分かる人が実演し、別の人がスマホで撮るだけで成立します。承認は「基準が合っているか」を見る役です。編集は最小で良いので、テロップを入れるより、短尺にする方が効きます。

【新人初月セット(3本)テンプレ案】
1)報告|現場の進捗報告の型(いつ・何を・どこへ)2分
2)写真|現場写真の撮影と保存ルール(命名・フォルダ)3分
3)検査|引き渡し前チェックの基本(見る順番と基準)3分
補足:各動画の最後に「提出先」「期限」「完了条件」を必ず入れる

最初の成功条件は「新人初月の3本が使われること」です。役割分担と視聴後アクションをセットにし、説明回数と手戻りが減ったかで判断しましょう。

まとめ|動画マニュアルは「作る」ではなく「回す」仕組みです

社内マニュアルを動画にすると、新人教育の説明品質が揃い、先輩の繰り返し説明が減り、現場の手戻りが減ります。判断軸は、動画化する業務を「利益に直撃する定型業務」から選び、短尺で分割し、置き場所と命名で検索できる状態を作ることです。

明日から試せる一歩は、新人初月に必要な業務を3つ選び、台本テンプレで要点を揃えて、60〜180秒で撮ることです。編集に時間をかけず、まず現場で使われる導線を作りましょう。

定着の鍵は、更新担当と承認ルールを決め、月1回の棚卸しでズレを直すことです。社内共有のテンプレを固定し、動画が「質問の戻り先」になると、教育が仕組みになります。

この記事を書いた人

くらし建築百科 編集部は、工務店・リフォーム会社・建築会社の「現場」と「経営」の両方に寄り添う情報発信チームです。住宅業界のマーケティング支援やDX導入支援に携わってきたメンバーが、集客・採用・補助金・業務効率化など、明日から使える実務ノウハウを分かりやすくお届けします。

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