長期優良住宅化リフォーム推進事業の活用ガイド|最大210万円の補助金を獲得するためのインスペクション実務

長期優良住宅化リフォーム推進事業は、性能向上リフォームを「調査から履歴・維持保全まで」一体で支援する制度です。工事そのものだけでなく、インスペクションや維持保全計画、瑕疵保険まで補助対象に含まれます。

一方で、現場では「いつ契約してよいか」「どのタイミングで着工できるか」「誰が申請主体か」が曖昧になりやすいです。登録前に契約してしまう、登録前に着工してしまうなど、取り返しがつかないミスが起きやすいのが実情です。

さらに、インスペクション(既存住宅状況調査のことです。建物の現況や劣化事象を、定められた手順で確認し記録します)を「誰に」「どの書式で」依頼するかで、申請書類の手戻りが発生します。

申請は施主がやると思っていました。うちは書類だけ協力すればいいですか。

工事請負契約を先に結んでから、登録と申請を進めても問題ないですよね。

この記事では、補助上限と型の選び方、インスペクション実務、契約・着工のNG、社内で回る申請フローを判断軸として整理します

目次

制度の全体像を5分で把握する

補助の対象は「工事+調査+履歴+維持保全+保険」です

本事業は、性能向上リフォーム等の費用だけでなく、インスペクション費用、履歴情報の作成、維持保全計画の作成、リフォーム瑕疵保険の保険料までを補助対象に含めます。ここを理解すると、見積と段取りの組み方が変わります。工事が良くても、調査と記録が雑だと採択後の手戻りが増えます。

実務シーンで多いのは、断熱改修や耐震補強の案件を「ついでに補助金も」と後付けで載せようとして、契約時点の条件に合わず対象外になるパターンです。補助金ありきではなく、制度の必須作業を工程表に組み込むのがコツです。

申請主体は施工業者・買取再販業者です

交付申請等の手続きは、施工業者または買取再販業者が行います。発注者が自ら申請する制度ではありません。社内では「営業が説明して、工務が段取りし、事務が申請する」など役割の固定が必要です。

失敗しやすいポイントは、施主に「申請は施主側でやってください」と誤案内してしまうことです。補助金還元(最終支払いへの充当、または現金支払い)は事前合意が前提なので、契約書・見積書の文言までセットで管理しましょう。

制度は「工事だけ」では回りません。申請主体・補助対象範囲・還元方法を、営業説明から契約書まで一本化しましょう。

補助上限と型の選び方|最大210万円までの設計

評価基準型と認定長期優良住宅型の違いを比較で押さえる

補助限度額は「評価基準型(一定の性能確保が見込まれる場合)」が1住戸あたり80万円、「認定長期優良住宅型(増改築の認定取得を目指す場合)」が1住戸あたり160万円です。さらに条件により50万円の加算があり、最大210万円まで設計できます。

区分補助上限(1住戸)狙うべき案件の目安実務の注意点
評価基準型80万円断熱・耐震・劣化対策を中心に、認定取得までは求めない案件性能評価の根拠資料を揃えないと、工事内容が良くても手戻りが増えます
認定長期優良住宅型160万円中古流通・リノベで資産価値まで含めて提案したい案件増改築の認定申請は所管行政庁等の手続きが絡むため、早期に段取りを固定します
加算(条件該当時)+50万円(上限)三世代同居対応、若者・子育て世帯、購入して改修など条件確認を営業ヒアリングで取り切らないと、後から加算が外れます

専門用語の整理です。所管行政庁とは、長期優良住宅(増改築)認定の申請先となる自治体等の窓口のことです。窓口と審査機関が別になるケースがあるため、着工前に「誰がどこへ何を出すか」を表にして共有しましょう。

対象外になりやすい「契約・着工の順序」を先に潰す

事業者登録が完了する前に締結した工事請負契約等は補助対象外です。また、住宅登録が完了する前に着手したリフォーム工事も補助対象外です。工程上は、登録完了を起点に「契約」「着工」の順序を管理しないと、どれだけ良い工事でも補助がゼロになります。

現場での改善のコツは、見積提出の前に「登録状況」と「住宅登録予定日」を社内で確定することです。営業が先走って契約を取りにいくと事故が増えます。判断軸はシンプルで、登録完了の証跡が社内共有できるまでは、契約書の締結日を確定しない運用にします。

判断テンプレ(契約・着工OK判定)
1. 事業者登録:完了(完了日:__/管理者:__)
2. 住宅登録:完了(完了日:__/対象住戸:__)
3. インスペクション実施日:__(着工前1年以内か:はい/いいえ)
4. 補助上限の型:評価基準型(80万)/認定長期優良住宅型(160万)/加算要件(該当/非該当)
5. 還元方法の合意:最終支払い充当/現金(合意書の有無:あり/なし)
判定:契約締結 可/不可 着工 可/不可

登録前の契約・住宅登録前の着工は一発で対象外です。工程表に「登録完了→契約→住宅登録→着工」を固定しましょう。

インスペクション実務|手配・書式・是正工事まで一本化する

誰が実施できるかを先に確定する

インスペクションは、既存住宅状況調査技術者が行うのが原則です。既存住宅状況調査技術者とは、登録講習を受けて登録された建築士のことです。近隣に該当者がいない等のやむを得ない場合は、事前に実施支援室へ相談し、了解を得た上で建築士が実施する扱いがあります。

失敗しやすいポイントは、調査者の資格確認をせずに発注し、後から差し替えになることです。改善のコツは、発注書に「既存住宅状況調査技術者の登録番号」「所定のチェックシート使用」を明記しておくことです。

インスペクション依頼メール(コピペ)
件名:長期優良住宅化リフォーム推進事業に伴うインスペクションのご依頼
本文:
お世話になっております。__(会社名)の__です。下記物件について、着工前のインスペクション(既存住宅状況調査)をお願いしたくご連絡しました。
・物件所在地:__
・希望実施日:__(第一希望)/__(第二希望)
・調査者要件:既存住宅状況調査技術者での実施(登録番号のご提示をお願いします)
・書式:事業の所定「現況検査チェックシート」を用いた記録、写しのご提供
・目的:交付申請の添付資料として使用
ご対応可否と概算費用をご返信ください。よろしくお願いいたします。

いつ実施するかを工程で縛る

インスペクションは、リフォーム工事の着手前1年以内に実施する必要があります。さらに、当該年度の事業者登録後に契約・実施した場合に限り、インスペクション費用を補助対象とする扱いがあります。つまり「日付」と「契約のタイミング」を両方管理します。

改善のコツは、現調の段階で「インスペクション実施日」「着工予定日」「申請予定期」をセットで決めることです。工事スケジュールだけで走ると、補助対象期間から外れます。運用イメージとしては、営業が案件化した時点で事務が登録状況を確認し、工務が調査日を押さえる流れにします。

チェックシート運用と「指摘事項の扱い」を決める

インスペクション結果は、原則として所定の現況検査チェックシートを用いて実施し、その写しを交付申請書に添付します。指摘された劣化事象の補修工事は、性能向上に資する工事として整理されます。ここが曖昧だと、見積の工事項目と申請の工事項目がずれて差し戻しになります。

現況検査チェックシート運用ルール(社内掲示用)
1. チェックシートは「所定様式」を使用し、現場写真は番号で紐付けます
2. 指摘事項は「補修の要否」「工事項目」「見積計上の有無」を1行で整理します
3. 指摘事項の補修を行う場合、見積書に「インスペクション指摘事項対応」と明記します
4. 申請添付用の写しは、提出前に事務がファイル名・ページ欠落を確認します

インスペクションは「誰が・いつ・どの書式で・指摘事項をどう見積に落とすか」を決め切ると手戻りが止まります。

申請フローを社内で回す|役割分担とチェックポイント

全体の流れを「本文+箇条書き+補足解説」で固定する

交付申請等の手続きは事業者が行い、電子申請等の所定手続きを踏みます。現場では、担当者ごとに理解がバラつくと、同じ資料を何度も作り直します。そこで、社内フローを一枚にして、案件ごとにチェックを入れる運用にしましょう。

  • 営業:施主ヒアリングで加算要件(子育て・購入改修・三世代同居等)の確認、還元方法の合意書案内
  • 工務:インスペクション手配、指摘事項の補修方針決定、工程表に登録・申請のマイルストーンを組み込み
  • 設計:性能向上の仕様確定、図面・仕様書の整備、審査機関・所管行政庁向け資料の準備
  • 事務:登録状況の管理、添付資料の体裁チェック、提出期限管理、実績報告の証憑回収

補足解説です。還元方法は、最終支払いへの充当または現金支払いのいずれかで、補助対象者と事前に合意した方法で行います。ここが口頭のままだと、完了時に揉めます。営業は契約前に合意書を取り、事務は申請書類と同じフォルダで保管する運用にします。

案件開始時に必ず押さえる「4つのゲート」

この制度は、ゲートを1つでも飛ばすと対象外になります。ゲートは次の4つに整理できます。1つ目が事業者登録、2つ目が住宅登録、3つ目が契約日、4つ目が着工日です。判断が曖昧になりがちなので、毎案件で同じ質問をする仕組みにします。

営業ヒアリング項目(加算・適用可否の取り切り)
1. 世帯属性:若者世帯/子育て世帯(該当・非該当)
2. 取得形態:既存住宅を購入して改修する/購入せず改修する
3. 工事目的:同居のための増設・改修の有無(キッチン等の追加を含む)
4. 申請主体の理解:申請は事業者が行うことを説明済み(はい/いいえ)
5. 還元方法:最終支払い充当/現金(説明済み:はい/いいえ)

失敗しやすいポイントは、現場が「着工日」を工事開始日だけで管理し、解体・仮設・材料搬入などの実態とズレることです。社内では「現場が着手した日」を着工日として統一し、住宅登録完了前の一切の着手を禁止するルールにします。

社内運用は「登録・住宅登録・契約・着工」の4ゲートを案件チェックに落とし、営業の前倒し事故を仕組みで止めましょう。

見積・証憑・実績報告で詰まらないための原価管理

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補助対象工事の切り分けを「見積の構造」で表現する

補助対象は、特定性能向上リフォーム工事、その他性能向上リフォーム工事、同居・子育て・防災等の改修工事、そしてインスペクション等の付帯費用に整理されます。見積書は、この区分に沿って項目を並べると、申請書の転記ミスが減ります。

専門用語の整理です。附帯工事とは、性能向上工事を成立させるために必要な関連工事のことです。附帯か否かの判断が曖昧だと、工事項目の補助可否がブレます。社内では「性能向上のために不可欠か」を判断軸にして、根拠を一言メモで残しましょう。

証憑回収は「完了実績報告から逆算」する

実績報告は期限があり、未回収の領収書・写真・出来形資料があると、事務が最後に詰みます。運用のコツは、着工前に「証憑の回収担当」と「回収タイミング」を決めることです。現場は写真、事務は請求・支払、設計は図面と仕様、というように持ち分を固定します。

完了実績報告の回収チェック(工事中に埋める)
・着工前:住宅登録完了の証跡、インスペクション結果(チェックシート写し)
・工事中:性能向上部位の施工写真(部位・日付・位置が分かる)、材料納品書
・完了時:出来形写真、請求書・領収書、支払記録、履歴情報の作成物、維持保全計画の作成物、瑕疵保険の証券控え(該当時)

失敗しやすいポイントは、現場写真が「何の性能向上か分からない」状態で集まってしまうことです。改善のコツは、写真台帳のファイル名に「性能区分」「部位」「施工日」を入れて、申請書の項目と一致させることです。これだけで事務の突合が半分になります。

見積の区分と証憑の名前付けを、制度の区分に合わせて統一すると、実績報告で詰まりません。

まとめ|補助金を「取れる現場」にするための最短の一歩

長期優良住宅化リフォーム推進事業で最も重要な判断軸は、評価基準型(80万円)か認定長期優良住宅型(160万円)かを早期に決め、加算要件を営業ヒアリングで取り切ることです。上限設計は最大210万円までが基本線になります。

明日から試せる一歩は、案件開始時に「登録・住宅登録・契約・着工」の4ゲートをチェックする運用に切り替えることです。登録前契約と住宅登録前着工をゼロにすると、補助金が安定します。

社内共有と定着のコツは、インスペクションの依頼文面、チェックシート運用ルール、営業ヒアリング項目、実績報告チェックをテンプレ化し、案件フォルダの冒頭に固定することです。担当者が変わっても同じ品質で回る状態を作りましょう。

補助金は「制度理解」より「運用の型」が勝負です。4ゲート管理とテンプレ運用で、毎案件で再現できる体制にしましょう。

この記事を書いた人

くらし建築百科 編集部は、工務店・リフォーム会社・建築会社の「現場」と「経営」の両方に寄り添う情報発信チームです。住宅業界のマーケティング支援やDX導入支援に携わってきたメンバーが、集客・採用・補助金・業務効率化など、明日から使える実務ノウハウを分かりやすくお届けします。

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