外注の一人親方に頼り切りだと、忙しい時期だけ人が足りず、予定が読めず、現場監督や工事部の段取りが毎回ギリギリになります。さらに単価交渉が場当たりになり、社内の原価感覚が揺れて、粗利が残らない案件が増えます。
一方で「正社員として直接雇用したい」と思っても、条件をどう出せば刺さるのか、何を約束してよいのか、社内の合意が曖昧になりがちです。特に面談で勢いだけで条件を口にしてしまい、後で撤回できず揉めるのが現場が躓くポイントです。
この記事では、一人親方を「正社員」に転換するために必要な条件提示の設計と、相手の不安をほどく口説き方を、テンプレ付きで具体化します。

外注に頼るほど現場が回るけど、単価が上がって粗利が削れます。良い職人ほど取り合いで、いつ抜けるかも読めません。



社保を付ければ来てくれるはず、と思っていましたが、実際は「手取りが減るのが怖い」と言われて話が止まりました。
社保・安定受注・働き方の透明性を武器に、年収設計と運用ルールまで含めて「納得して転換できる条件」を作る判断軸を整理します
一人親方が正社員化で迷う「3つの不安」を言語化しましょう


不安1:手取りが下がる怖さを先に潰しましょう
一人親方とは、個人事業主として請負で現場に入る職人の働き方です。正社員化の話で最初に出るのが「手取りが下がるのでは」という不安です。社会保険(社保)は、健康保険と厚生年金などの公的保険のことです。社保に入ると会社負担も発生しますが、本人の負担も増えるため、単純に日当だけで比較すると損に見えます。
工務店の実務では、面談で「社保あります」「賞与あります」と言っただけで終わり、相手の頭の中では「今の月手取りがいくら減るのか」が未解決のままになります。ここが曖昧だと、返事が伸びて自然消滅します。
- 現状の平均月収(直近3〜6か月)を聞く
- 繁忙期・閑散期の波を聞く
- 経費(車両・工具・材料立替・保険)を聞く
- 家族構成と働ける時間帯を聞く(早出・残業の可否)
改善のコツは「現状の手取りの再現」と「正社員後の年収の見える化」をセットで出すことです。判断軸は、手取りの下振れを避けること、閑散期の不安を消すこと、将来の年金と医療の安心を言葉にすることです。社内運用としては、面談前にヒアリングシートを回収し、概算の年収レンジを作ってから提示しましょう。
不安2:拘束時間と自由度の誤解をほどきましょう
一人親方は現場の選択自由がある反面、段取りや移動の負担を本人が被ります。正社員になると「自由がなくなる」「休めなくなる」と誤解されがちです。ここで必要なのは、働き方のルールを曖昧にしないことです。就業規則とは、勤務時間・休日・賃金などの社内ルールを文書化したものです。
失敗しやすいのは「うちは融通ききます」とだけ言い、具体が無いまま入社して、現場側の期待とズレることです。例えば、現場監督は「毎朝必ず朝礼参加」と思っていて、本人は「現場直行でよい」と思っていた、というズレが起きます。
- 直行直帰の可否と条件(報告方法まで)
- 休日の取り方(隔週休み/週休2日/雨天時の扱い)
- 残業の考え方(突発対応の上限)
- 副業・請負の可否(道具持ち込みも含めて)
改善のコツは「自由度は残しつつ、現場の約束は固定する」ことです。運用イメージとして、面談で合意した働き方は、入社時に1枚の合意書に落として署名まで取りましょう。口頭合意で走ると、現場で揉めた時に誰も守れません。
正社員化の最初の壁は「手取り」と「自由度」の誤解です。数字とルールを先に固定して、不安の芽を面談で潰しましょう。
条件提示は「社保」だけでは弱いです。武器を3点セットで揃えましょう
武器1:安定受注の根拠を見せましょう
安定受注とは、仕事量が一定以上見込める状態のことです。優秀な一人親方ほど「今の取引先が切れたら困る」という不安を強く持ちます。ここで「うちは仕事あります」は弱いです。根拠の形を見せましょう。
工務店の実務シーンでは、受注が読めないと外注が増え、外注が増えると原価が上がり、粗利が減ります。この悪循環を断ち切るには、職人本人にとっての「年間の仕事量の見通し」を提示する必要があります。
【受注の根拠提示テンプレ】
当社の直近12か月の施工実績は○件で、平均稼働は月○現場です。今期は受注残が○か月分あり、来期も紹介・OB・反響で月○件の着工見込みがあります。入社後は、月○日稼働を基本として、閑散期はリフォーム・メンテ班で稼働を確保します。
失敗しやすいポイントは、根拠を出さずに「忙しいから来て」と迫り、忙しさが落ち着いた瞬間に待遇が悪く見えることです。改善のコツは、繁忙期だけでなく閑散期の稼働確保の筋道を説明することです。社内運用として、年間の工事種別比率(新築・リフォーム・アフター)を数字で出せるようにしておきましょう。
武器2:評価と昇給を「現場言語」に翻訳しましょう
評価制度とは、成果や行動を基準にして賃金や役割を決める仕組みです。職人採用で多い失敗は「頑張ったら上げます」という曖昧な表現です。職人は現場の具体で判断します。評価基準は、品質・安全・段取り・コミュニケーションなど、現場言語に落として提示しましょう。
- 手戻りゼロ(やり直しが発生しない)
- 指示待ちではなく段取りを先読みできる
- 安全ルールを守り、ヒヤリハットを報告できる
- 現場監督への報連相が早い
【評価説明テンプレ(面談用)】
当社の評価は「品質」「安全」「段取り」「報連相」の4項目です。月1回、現場監督がチェックし、3か月ごとに面談でフィードバックします。昇給は評価点と担当できる工種の幅で決め、上限と目標を最初に共有します。
改善の判断軸は「何をやれば上がるかが明確か」です。運用イメージとして、評価は現場監督の主観だけにせず、チェック項目を固定し、職人にも自己チェックをさせてズレを減らしましょう。
条件提示の武器は「社保」単体では弱いです。安定受注の根拠と、評価・昇給の具体をセットで見せて納得の材料を揃えましょう。
年収設計は「日当換算」ではなく「年間の安心」で組み立てましょう


固定給・手当・賞与の組み合わせを先に決めましょう
固定給とは、毎月一定額が支払われる給与です。職人の正社員化では、固定給だけで勝負すると相場より高くなりがちで、逆に低いと刺さりません。ポイントは「固定給+現場に紐づく手当+賞与」の組み合わせで、本人の安心と会社の粗利を両立することです。
工務店の実務シーンでは、現場のばらつきがあるため、月の残業や休日出勤の差が出ます。ここを放置すると「忙しい月だけ働かされている」と不満が出ます。失敗しやすいのは、面談で年収の総額を言わず、月給だけを話してしまうことです。
- 基本給:生活の下支え(最低ラインを守る)
- 技能手当:できる工種・資格に紐づける
- 現場手当:移動・段取り負担を評価する
- 賞与:会社の利益と連動し、上限を決める
試用期間と条件変更の線引きを明確にしましょう
試用期間とは、入社後に適性や働き方の相性を確認する期間です。口説く側が不安を持つのは当然なので、最初から試用期間を設けて線引きを作りましょう。ここを曖昧にすると、採用後のミスマッチでズルズル続き、現場が荒れます。
【試用期間の説明テンプレ】
入社後3か月は試用期間とし、担当する工種・品質・安全・報連相を確認します。試用期間中の給与条件は本採用と同じです。合わない場合は、双方の合意のもとで終了できる形にします。
改善のコツは、試用期間の評価項目を事前に渡し、本人にも「何を見られるか」を理解してもらうことです。運用イメージとして、試用期間の1か月目・2か月目・3か月目で面談を入れ、早めにズレを修正しましょう。
年収提示は「月給」だけで終わらせず、固定給・手当・賞与の設計で年間の安心を作りましょう。試用期間の線引きまで出すと採用後の揉め事が減ります。
口説き方は「条件→締結」ではなく「共感→比較→合意」で進めましょう
最初の面談は「不安の棚卸し」に使いましょう
いきなり条件を提示すると、相手は「今決めろと言われている」と感じて身構えます。最初は不安の棚卸しに使いましょう。棚卸しとは、今の状況を項目ごとに整理して見える化することです。工務店の実務では、現場監督が同席できないことも多いため、採用担当が質問の型を持つ必要があります。
- 今の取引先で不満な点(単価、段取り、支払い、現場環境)
- 今後増やしたい工種・減らしたい工種
- 家族の事情(休日、保険、将来不安)
- 正社員にするなら譲れない条件
失敗しやすいポイントは、こちらの魅力だけを話して終わり、相手の「譲れない条件」を聞けていないことです。改善の判断軸は、相手の不安が言語化できたか、比較軸が揃ったかです。社内運用として、面談メモは共有フォーマットにして、次回提案に必ず反映しましょう。
2回目で比較表を出し、合意できる範囲を締めましょう
2回目は「比較」と「合意」の回です。ここで表を使うと、感情論を減らせます。比較は、現状の一人親方の働き方と、正社員の条件を同じ軸で並べることです。
| 比較項目 | 現状(一人親方) | 正社員化(提案) | 判断のコツ |
|---|---|---|---|
| 収入の安定 | 繁閑で上下 | 固定給+手当で下支え | 閑散期の最低ラインを決める |
| 保険・年金 | 国保・国民年金が中心 | 社保(健康保険・厚生年金) | 将来不安が強い人ほど刺さる |
| 自由度 | 現場選択の自由 | ルールの範囲で直行直帰など | 自由を残す条件を文章化する |
| 評価・単価 | 都度交渉で曖昧 | 評価項目で昇給ルール固定 | 何をすれば上がるかを明示する |
| 段取り負担 | 本人負担が大きい | 監督・手配で支援 | 段取り支援の範囲を決める |
この表を見せたうえで、合意できる範囲を締めます。失敗しやすいのは、合意事項を文書にせず「じゃあ前向きに」で終わることです。改善のコツは、次に何を決めるか(年収レンジ、働き方、入社時期)をその場で確定させることです。
【次回までの宿題テンプレ(口頭でも可)】
今日は比較軸を揃えました。次回は「年収レンジ」「働き方(直行直帰・休日)」「試用期間」の3点を決めます。ご自身の希望の最低ライン(手取り・休日・稼働日数)をメモしておいてください。
採用後に揉めないために「現場ルール」と「禁止事項」を先に配りましょう


本文+箇条書き+補足解説で、運用の抜けを潰しましょう
正社員化は採用で終わりではなく、現場運用で勝ちます。運用とは、決めたルールを日々回して守れる状態にすることです。ここでは「本文+箇条書き+補足解説」の形で、現場で揉めやすい点を先回りして整理します。
- 報告の型:日報の提出時間、写真の撮り方、誰に送るか
- 資材・工具:支給と持ち込みの範囲、破損時の扱い
- 安全:ヘルメット・安全帯・立入禁止の徹底
- 顧客対応:施主への説明は誰がするか、勝手な約束禁止
- 品質:手戻りが出た時の対応と再発防止の出し方
補足解説です。報告の型を決めないと、現場監督が情報不足で手配ミスを起こします。資材・工具の線引きが無いと、本人が損をした気持ちになり不満が溜まります。顧客対応の役割分担が曖昧だと、現場で勝手に値引きや追加工事の約束が発生し、粗利が崩れます。ここは最初に「禁止事項」まで含めて明文化しましょう。
- チェック:日報は当日18時までに提出できる運用にします
- チェック:施主への約束は必ず監督を通します
- チェック:安全ルール違反は即是正します
- チェック:手戻りは原因と対策を1枚で提出します
【現場ルール配布テンプレ(入社時)】
当社の現場は「安全」「品質」「段取り」「報連相」を最優先にします。施主への説明・約束は現場監督が行い、職人判断での約束は禁止です。日報は当日18時までに提出し、写真は工程ごとに残します。手戻りが出た場合は、原因と再発防止を1枚で提出します。
労務の前提も、短く噛み砕いて伝えましょう
労務とは、勤務時間・残業・休日・賃金など働き方に関する管理のことです。36協定とは、残業や休日労働を行うために会社と従業員側で結ぶ法定の協定です。ここを避けて採用すると、後から「聞いてない」が起きます。
工務店の実務では、突発の工程遅れや雨天順延で残業が出ます。失敗しやすいのは、残業を無制限に受ける前提で口説いてしまい、定着しないことです。改善の判断軸は、残業・休日出勤の上限と代休の運用が説明できるかです。社内で回すために、就業規則と運用の実態のズレを採用前に潰しましょう。
採用後の揉め事は「現場ルール」と「労務の前提」が原因になりやすいです。禁止事項まで含めて入社時に配布し、運用で守れる形にしましょう。
まとめ|直接雇用は「条件の強さ」ではなく「設計と運用」で勝ちましょう
一人親方を正社員として直接雇用するための判断軸は、社保の有無ではなく「手取りの不安を数字で解消できるか」「安定受注の根拠を示せるか」「評価と昇給を現場言語で説明できるか」「現場ルールを文書で運用できるか」です。ここが揃うと、外注の取り合いから抜け出しやすくなります。
明日から試せる一歩は、面談前ヒアリングの型を作り、2回目面談で比較表を出す流れに切り替えることです。さらに、試用期間と現場ルール配布テンプレを用意すると、採用後の揉め事が減り、現場監督の負担も軽くなります。
社内共有・定着のために、採用担当だけで抱えず、現場監督とバックオフィスで「提示条件」「評価項目」「運用ルール」を同じ紙で持ちましょう。採用は営業活動と同じで、資料と運用が揃うほど再現性が上がります。








