地方の工務店で採用を進めようとしても、「応募が来ない」「来てもミスマッチ」「面接が現場任せで評価がブレる」といった壁にぶつかりやすいです。特にU・Iターン採用は、給与や勤務地だけで勝負すると都心企業に負けやすく、採用担当も現場も疲弊しがちです。
さらに、移住支援や地域とのつながりを打ち出したくても、何をどこまで約束してよいかが曖昧だと、説明が担当者ごとに変わり、候補者の不安が増えます。現場が躓くポイントは、採用の判断軸が言語化されておらず、発信・面接・条件提示がバラバラになることです。

都心に出た若手に戻ってきてほしいですが、何を魅力にすれば良いかわかりません。給与は上げ切れないです。



移住支援って制度を並べれば刺さりますよね。とりあえず手当を付ければ応募が増えると思っていました。
この記事では、U・Iターン採用を「再現できる仕組み」にするための判断軸と、福利厚生・移住支援・地域連携を採用力に変える設計手順を整理します。
地方工務店がU・Iターン採用で勝てた理由は「条件」ではなく「設計」です


U・Iターン採用の前提を揃える(言葉の定義でズレを止める)
U・Iターン採用とは、都市部で働く人に地元へ戻ってもらう、または地域外の人に移住してもらう採用のことです。まず大事なのは「移住する人は、転職ではなく生活を組み替える」という前提を社内で共有することです。転職理由だけでなく、家族・住居・子育て・地域の人間関係まで含めて意思決定が起きます。
この前提が揃わないまま募集を始めると、現場は「来られるなら誰でも」と考え、バックオフィスは「制度があるかどうか」だけを並べ、広報は「地域が良い」だけを語り、候補者には一貫した魅力が伝わりません。結果として、面接で不安が増え、辞退が増えます。
成功した工務店が最初にやったことは「採用の約束」を1枚にしたことです
成功事例の工務店は、給与水準を無理に上げるのではなく、「誰に・何を約束する会社か」を採用向けに整理しました。ここでいうEVPとは、候補者に提供できる価値のパッケージのことで、給与以外も含めて「うちで働く理由」を一枚にまとめる考え方です。EVPを作ると、求人票・面接・内定条件の提示が同じ基準で揃います。
たとえば、現場監督の採用で「裁量がある」と言うだけでは伝わりません。「裁量=工期調整・協力業者選定・提案内容の判断まで任せる」など、具体的に言い換えて初めて価値になります。実務シーンでの約束が言語化できると、都心で経験を積んだ人ほど納得しやすくなります。
判断テンプレ(採用の約束1枚シート):
1)採用職種:
2)任せる仕事(現場の範囲):
3)任せない仕事(線引き):
4)評価の基準(成果の定義):
5)働き方の約束(残業・直行直帰・休日):
6)生活支援の約束(住まい・子育て・地域):
7)入社後90日で達成すること:
U・Iターン採用は「制度を足す」より先に、誰に何を約束するかを1枚にして判断軸を揃えましょう。
成功事例の全体像|都心人材を呼び戻したロードマップ(母集団→面接→定着)
ロードマップは「候補者の不安」を順番に潰す設計です
この事例では、採用を一発勝負にせず、段階を分けて設計しました。母集団形成で伝える内容、面接で確認する内容、内定後に支える内容を分離し、各段階で候補者が不安に思う点を先回りして解消しました。ここでいうオンボーディングとは、入社後に早く戦力化し、安心して働ける状態にする受け入れ設計のことです。
実務シーンでの失敗例は、面接で「うちはアットホームです」と雰囲気だけ伝え、内定後に住居や保育園など現実の話が出てきて辞退されるパターンです。最初から生活設計まで含めて話すのではなく、「いつ、何を、どこまで約束するか」を決めて運用すると、社内の負担も減ります。
できること/できないことを表で明確化すると、面接のブレが止まります
成功した工務店は、候補者に寄り添う一方で、過剰に約束しない線引きを徹底しました。ここが曖昧だと、採用したい気持ちが先行し、後から現場が回らなくなります。以下のように、社内で「できる/できない」を見える化しておくと、誰が説明してもズレません。
| 項目 | できること(約束) | できないこと(線引き) |
|---|---|---|
| 住まい | 不動産会社・空き家バンク紹介、内見同行の調整 | 物件契約の保証、家賃の全額補助 |
| 働き方 | 直行直帰の運用、繁忙期の事前共有、代休のルール化 | 繁忙期ゼロ、急な休みの常時対応 |
| 子育て | 保育園情報の提供、行事日の調整相談 | 保育園の確約、常時テレワーク |
| 地域コミュニティ | 自治会・PTAの情報共有、参加の選択肢提示 | 参加の強制、社外活動の業務扱い |
運用ルールテンプレ(説明の統一用):
・候補者に必ず伝える約束:
・「相談できる」と言う範囲(誰が、何を):
・約束しない項目(線引き):
・確認が必要な項目(決裁者):
・例外対応の条件(上限・期限):
独自の福利厚生は「豪華さ」ではなく「生活の詰まり」を解消して刺さります


福利厚生の設計はペルソナ別に分けると費用対効果が上がります
福利厚生は、全員に薄く配るより、U・Iターン候補者の「生活で詰まりやすい点」に集中させた方が刺さります。ここでいうペルソナとは、採用したい人物像を具体的な生活背景まで落とし込んだ仮想像のことです。事例の工務店では、都心で働いていた経験者に多い悩みを3タイプに分け、福利厚生のメニューも分けました。
タイプ例
(1)子育て世帯で保育園・通院・行事の調整に不安がある
(2)単身で住まい探しが面倒
(3)共働きで配偶者の仕事が未確定
の3つです。ここを分けずに「移住手当」を一律で付けると、必要のない人には響かず、必要な人には足りません。
本文+箇条書き+補足解説で、福利厚生の伝え方を統一します
福利厚生は「制度がある」だけでは価値になりません。採用の場では、候補者が自分の生活に当てはめられる形で説明しましょう。事例で効果が高かったのは、金額よりも運用が具体的なメニューでした。
- 住まい探しサポート(内見日程の調整、地域別の家賃相場シート提供)
- 転居手続きの段取り支援(必要書類一覧、役所手続きの所要時間の共有)
- 子育てサポート(行事日の事前申告ルール、急な通院時のフォロー体制)
- 地域になじむ導線(最初の半年は参加自由のコミュニティ紹介、強制しない)
補足解説です。上記は「会社が全部やる」ではなく、「段取りの不安を減らす」設計です。特に住まい・子育ては、候補者側が情報不足で動けずにストレスが増えます。会社側が情報と段取りを提供し、最終判断は本人に委ねると、過剰な約束にならず、信頼だけが積み上がります。
福利厚生設計テンプレ(刺さる条件の作り方):
1)対象者(誰の不安を減らすか):
2)不安の具体(生活で詰まる場面):
3)会社ができる支援(情報・調整・費用):
4)線引き(保証しないこと):
5)運用担当(誰が何をするか):
6)求人での書き方(1文で言い換え):
独自福利厚生は「豪華さ」ではなく「生活の詰まりを解消する段取り支援」に寄せると、費用を抑えて刺さります。
移住支援と地域コミュニティ連携は「採用施策」ではなく「受け入れ体制」です
行政制度は「一覧」ではなく「使い方」をセットで伝えます
移住支援は、制度名を並べても候補者は動けません。候補者が知りたいのは「自分は対象か」「いつ申請するか」「何が面倒か」「誰が助けてくれるか」です。事例の工務店は、行政の制度を会社が代行するのではなく、申請の段取りと注意点を整理し、候補者が迷わない状態を作りました。
失敗しやすいポイントは、担当者が善意で「大丈夫です、たぶん出ます」と曖昧に言ってしまうことです。制度は年度や要件で変わりやすく、確約はトラブルになります。ここは「確認先」と「確認するタイミング」を運用で固定しましょう。
候補者向け案内テンプレ(移住支援の伝え方):
・当社としてできること:制度の候補整理、窓口の案内、手続き時期の段取り共有
・確約できないこと:給付の可否、金額、審査結果
・確認方法:市区町村の担当窓口に条件を確認(当社も同席可)
・次の一歩:候補者の状況ヒアリング(現住所、家族構成、希望時期)
地域コミュニティは「参加強制」を消すと安心材料になります
地域コミュニティとの連携は強力ですが、出し方を間違えると逆効果です。都心人材ほど「濃い付き合いを強制されるのでは」と警戒します。事例の工務店は、自治会や職人会、子育てサークルなどの情報を「選べるメニュー」として提示し、最初の半年は参加自由、仕事と切り分ける方針を明文化しました。
実務では、現場監督が協力業者と顔が広いほど、善意で「紹介するよ」と進めがちです。紹介そのものは価値ですが、候補者の性格や家庭事情によって負担になります。紹介は段階を分け、「まずは見学」「合わなければ断れる」をセットにしましょう。
受け入れ体制テンプレ(地域連携の運用ルール):
・紹介できるコミュニティ一覧:
・参加は任意である旨:
・初回は見学のみ可:
・断る場合の伝え方(当社がフォロー):
・社内窓口(紹介担当):
広域採用を回す広報・選考オペ|カジュアル面談→現場確認→内定後フォロー


カジュアル面談で「生活の不安」を先に拾うと辞退が減ります
カジュアル面談とは、選考前に相互理解を目的として行う短い対話のことで、合否を決めない場です。U・Iターンでは、この場で生活の不安を拾えるかが勝負です。面接に進んでから住居や家族の話を出すと、候補者は「条件で落とされるのでは」と身構えます。先に「不安の棚卸し」をしておくと、必要な情報提供ができ、面接は仕事の話に集中できます。
失敗しやすいポイントは、現場側が採用したい気持ちで「何でも相談に乗る」と言ってしまうことです。相談を受けるのは良いですが、対応の範囲と担当を決めないと、現場の手が止まります。カジュアル面談は、質問項目を固定し、30分で終える運用にしましょう。
- 現住所と移住希望時期(いつまでに何を決めるか)
- 家族構成と優先順位(仕事、住まい、子育ての順番)
- 通勤手段の想定(車必須か、免許の有無)
- 不安点トップ3(本人の言葉で)
- 会社に期待する支援(情報、調整、費用のどれか)
現場確認(同行・オンライン見学)で「任せる範囲」を見える化します
都心経験者ほど、「入社後に思っていた仕事と違う」ことを嫌います。そこで事例の工務店は、面接だけで終わらせず、現場確認を選考プロセスに組み込みました。現場同行が難しい場合は、オンラインで工程会議の一部を見せたり、施工管理のツール画面を共有したりして、「任せる範囲」と「判断の基準」を見える化しました。
運用イメージとしては、(1)カジュアル面談、(2)一次面接(スキル・価値観)、(3)現場確認(業務の実態)、(4)最終面接(条件・受け入れ)、の順です。ここでATSとは、応募者情報を一元管理する採用管理の仕組みのことで、難しければスプレッドシートでも構いませんが「情報が散らばらない箱」を作るのが重要です。
面接評価テンプレ(ブレ防止の項目固定):
・職種スキル(できる作業):
・判断力(迷った時の基準):
・段取り力(関係者調整の経験):
・地域適応(不安の把握と対策):
・当社の約束への納得度:
・懸念点と追加確認:
定着までが採用です|内定後90日で離職を防ぐ受け入れ設計
内定後フォローは「生活のToDo」と「仕事のToDo」を分けて管理します
U・Iターン採用は、内定後に一気にタスクが増えます。引っ越し、手続き、子どもの環境、配偶者の仕事、車の準備など、仕事以外のToDoが山積みです。ここを放置すると、候補者は「本当に移住できるのか」と不安になり、直前辞退が起きます。事例の工務店は、内定後に「生活ToDo」と「仕事ToDo」を分けたチェックを渡し、週1回の短い連絡で詰まりを解消しました。
失敗しやすいポイントは、連絡が属人化して「社長が気が向いたら電話する」状態になることです。良かれと思った電話が、候補者にはプレッシャーになることもあります。頻度・連絡手段・担当を固定し、安心して相談できる窓口を作りましょう。
- 生活ToDo:住居、役所手続き、通園通学、車、医療、地域情報
- 仕事ToDo:入社日、必要書類、初日の動き、支給物、研修、現場配属
- 連絡ルール:週1回・15分・チャット優先、緊急のみ電話
入社後30日・60日・90日の面談で、現場の詰まりを早期にほどきます
入社後の離職は、能力よりも「詰まり」の放置で起きます。協力業者との距離感、方言や地域の暗黙ルール、工具や資材の呼び名の違いなど、小さなストレスが積み上がります。事例の工務店は、入社後30日・60日・90日の面談を固定し、仕事の課題と生活の課題を分けて確認しました。
運用のコツは、面談で「頑張ってね」で終わらせないことです。詰まりの原因が、権限の不足なのか、情報共有の不足なのか、段取りの不足なのかを切り分け、次の一手を決めます。ここまでやると、都心で優秀だった人ほど「ちゃんと受け入れてくれる会社だ」と評価します。
内定者フォロー文面テンプレ(週1連絡の定型):
件名:入社準備の進み具合の確認(15分)
本文:
・今週の確認事項は2点です。①生活ToDoで詰まっていること ②入社初日の不安点
・当社で対応できる範囲は段取り共有と窓口案内です。確約できない点は一緒に確認します。
・候補日時:〇/〇(〇)19:00〜、〇/〇(〇)12:00〜
U・Iターン採用は内定後が本番です。生活と仕事のToDoを分け、90日までの面談を固定して「詰まり」を放置しない仕組みにしましょう。
まとめ|U・Iターン採用を「一発勝負」から「再現できる仕組み」に変えましょう


判断軸の再確認|約束を1枚にし、線引きを表で持つ
地方の工務店がU・Iターン採用で成果を出す鍵は、給与や制度の単発強化ではありません。誰に何を約束するかを1枚にし、できること/できないことの線引きを表で持ち、発信・面接・条件提示を同じ基準で揃えることです。これで属人化が止まり、候補者の不安が減ります。
明日からの一歩|カジュアル面談の質問を固定し、内定後90日面談を予定に入れる
明日から試せる一歩は2つです。1つ目は、カジュアル面談の質問項目を固定し、30分で「不安の棚卸し」をすることです。2つ目は、内定後90日までの面談(30・60・90日)を先に予定化し、生活ToDoと仕事ToDoを分けて詰まりを解消することです。社内共有は、テンプレをそのまま使い、担当と線引きを明文化して定着させましょう。








