工務店の案件管理は、受注案件だけは丁寧に追える一方で、失注案件は「とりあえずクローズ」にしがちです。ところが、成約率を上げる材料は、受注理由よりも失注理由に集まります。なぜなら、失注は提案・見積・説明・タイミング・意思決定のどこで躓いたかが、そのまま改善点になるからです。
ただし現場の実態として、営業が忙しい時期ほど入力が後回しになり、担当ごとに理由の書き方がバラつきます。さらに、現場監督や工事部は「受注した案件を回すこと」が最優先なので、失注の情報は共有されにくいです。その結果、失注理由が曖昧なまま次の提案を繰り返し、同じ負け方を再現します。

失注は記録しているつもりですが、「価格で負けた」しか残っていません。次に活かす改善点が分からず、結局同じ提案をしています。



失注理由を細かく取ると営業が嫌がりそうです。入力を増やすほど現場が回らなくなるのではないですか。
この記事では、失注理由を「入力し続けられる型」にして蓄積し、週次・月次で営業戦略に戻す判断軸と運用ゴールを整理します
1. なぜ「負け戦データ」が成約率を上げるのか


失注理由は「改善の材料」か「言い訳」かで価値が決まる
失注データの価値は、記録量ではなく再現性にあります。再現性とは、同じ条件の案件で同じ負け方をしないように、次の提案で行動を変えられる状態です。たとえば「価格が高い」で終わると、次回は値引きしか手がなくなります。一方で「比較された競合の仕様」「お客様が不安に感じた点」「意思決定者が重視した軸」まで分かれば、値引き以外の改善策が作れます。
ここでのCRMは、顧客関係管理の仕組み(Customer Relationship Management)で、案件情報・対応履歴・見積・提案内容を一元管理する道具です。CRMに失注理由を型化して残すと、担当者の記憶に頼らず、組織として学習できます。
実務シーンで多いのは「忙しくてメモが残っていない」「商談後に手応えが悪く、そのまま連絡が途切れた」「現場調査や見積まで進んだが決裁が止まった」です。失注理由が残らないと、営業会議では印象論になり、改善の優先順位が決まりません。
失敗しやすいポイントは「分類が粗い」「入力が重い」「現場に戻らない」
失注データ運用で失敗しやすいポイントは3つです。1つ目は分類が粗く、ほぼ全件が「価格」「他社」になってしまうことです。2つ目は入力が重く、担当者が疲れている時に入力が止まることです。3つ目は分析や改善に使われず、入力した側が「結局意味がない」と感じることです。特に3つ目は致命的で、入力率が急落します。
改善のコツは、失注理由を「次回の提案で行動を変える単位」に分解し、入力を最短にし、会議や提案書の型に戻すことです。判断軸は「入力した情報で、次回の提案資料・見積説明・現場同席の動きが1つでも変わるか」です。社内で回す運用イメージとしては、営業が案件クローズ時に必須項目だけ入力し、週次で営業責任者が傾向を確認し、月次で提案の型を更新します。
2. CRMで必ず分解して記録する「失注理由」の設計
失注理由は「事実」「判断軸」「ギャップ」に分けて残す
失注理由を設計する時は、自由記述を増やすより、残す情報の型を決める方が効果が出ます。おすすめは、失注理由を「事実」「判断軸」「ギャップ」に分けることです。事実は、いつ誰がどの選択をしたかの出来事です。判断軸は、意思決定者が重視した条件です。ギャップは、自社提案と期待のズレのことです。ギャップを押さえると、次回の提案の直し所が明確になります。
具体例です。相見積で負けた案件で「他社が安かった」とだけ残すと改善策が作れません。事実として「A社に決定、決裁者はご主人、決定理由は総額と工期」。判断軸として「工期短縮、保証内容の分かりやすさ」。ギャップとして「当社は仕様説明に時間をかけたが、比較表がなく判断が遅れた」。ここまで残ると、次回は比較表の標準化や説明順の改善ができます。
【失注理由入力テンプレ(コピペ用)】
1) 失注確定日:
2) 最終ステータス(現調/見積提出/提案/契約直前):
3) 決裁者(氏名または属性):
4) 選定先(分かる範囲で):
5) 決定理由の事実(相手の言葉で):
6) 重視した判断軸(工期/価格/保証/担当者/提案力/施工実績など):
7) 当社のギャップ(ズレた点を1つ):
8) 次回やること(1つだけ):
分類コードは「価格」ではなく「価格に至った理由」に寄せる
失注理由の分類(コード設計)は、最初にやりすぎると現場が回りません。そこで、最初は10〜15個程度に絞り、しかも「価格」ではなく「価格に至った理由」に寄せます。たとえば「予算超過(見積の出し方)」「仕様差が伝わらない(比較資料不足)」「ローン・資金計画の不安(提案不足)」「工期不安(工程説明不足)」のように、改善行動につながる粒度にします。
失敗しやすいポイントは、分類が増えすぎて選べないこと、担当者の解釈で分類がブレることです。改善のコツは、分類ごとに「該当条件」を1行で書いておくことです。運用イメージとしては、CRMの選択式(プルダウン)で分類を選び、自由記述は「相手の言葉」と「次回やること」だけに制限します。これで入力が軽くなり、分析可能な形でデータがたまります。
【失注分類の定義(社内掲示用)】
・予算超過:当社見積が予算上限を超え、資金計画の提案が不足した
・仕様差が伝わらない:他社との差が比較表で示せず、判断が止まった
・工期不安:工程説明が不足し、引っ越し・入居時期に不安が残った
・担当者不安:説明の分かりにくさ、連絡速度、同席体制が不安要因になった
・決裁停止:意思決定者が不在、家族合意が取れず、検討が止まった
失注理由は「事実・判断軸・ギャップ」に分け、分類は「改善行動に直結する理由単位」に絞って運用しましょう。
3. 入力が続く運用ルールと現場導線の作り方


入力が止まる原因は「いつ入れるか」「誰が責任か」が決まっていない
失注データがたまらない最大の原因は、入力のタイミングと責任者が曖昧なことです。おすすめは「ステータスがクローズになった当日、または翌営業日の午前中まで」をルールにし、営業担当が必須項目だけ入力します。必須項目は、失注確定日、失注分類、決裁者属性、相手の言葉(短文)、次回やること(1つ)です。これ以上を必須にすると、忙しい時期に止まります。
CRMの入力導線も重要です。現場でスマホから入力する場面があるなら、選択式を中心にして、自由記述は短文にします。専門用語である「ステータス」は、案件の進み具合を示す段階のことです。ステータスが揃うと、どの段階で負けたかが見えるので、対策の優先順位が付けられます。
現場・工事部を巻き込むなら「同席記録」と「引き継ぎ項目」に限定する
工務店では、現場監督や工事部が現場調査や技術的説明に同席することがあります。この時、失注理由の深掘りに役立つ情報は、営業の印象よりも「現場で出た懸念」「施工条件の難しさ」「説明した制約」です。ただし、工事部に長文入力を求めると協力が得られません。そこで「同席した時だけ、チェック式で2項目入力」など、負担を限定します。
失敗しやすいポイントは、入力項目が増え、結局誰も入力しなくなることです。改善のコツは、入力項目を増やす前に「月次レビューで実際に使ったか」を確認してから、必要な項目だけ追加することです。運用イメージとしては、営業がクローズ入力、同席した現場がチェック入力、営業責任者が週次で入力漏れを確認します。
- 入力タイミングを「クローズ当日または翌営業日午前」に固定する
- 必須は「分類・決裁者・相手の言葉・次回やること」の最小セットにする
- 現場同席の情報は「チェック式の短い入力」に限定する
上の箇条書きは運用の骨格です。ここに補足として、入力漏れ対策を入れます。入力漏れは「担当者の怠慢」ではなく「導線が重い」か「締め切りがない」ことが原因です。CRM側で必須項目を設定し、未入力のままクローズできない設計にすると改善します。どうしても業務上クローズが先になる場合は、営業責任者が週次で未入力一覧を確認し、短時間で埋める時間を確保します。
【運用ルール注意書きテンプレ(社内周知用)】
・失注クローズは翌営業日午前までに入力する
・必須項目(分類/決裁者/相手の言葉/次回やること)が未入力ならクローズ禁止
・自由記述は長文禁止、相手の言葉は短文で残す
・月次レビューで使われない項目は追加しない
入力を増やす前に、必須項目の最小セットと締め切りを固定し、未入力一覧を週次で潰す導線を作りましょう。
4. 失注データを「分析して戻す」週次・月次の手順
週次は「件数と分類」、月次は「原因と打ち手」に分ける
失注データの分析は、重たいレポートを作るより、短いサイクルで意思決定につなげる方が成果が出ます。週次は「件数と分類」の確認に絞り、月次で「原因と打ち手」を決めます。週次で見る指標は、失注件数、失注分類の上位3つ、ステータス別の失注割合です。ステータス別に見ると「見積提出後に負ける」「契約直前で止まる」など、対策の場所が特定できます。
失敗しやすいポイントは、分析が営業責任者の個人作業になり、現場に戻らないことです。改善のコツは、週次は10分で終えること、月次は必ず「打ち手を1つ決めて、提案の型を更新する」ことです。運用イメージとしては、週次ミーティングで数字確認、月次会議でテンプレ更新、翌月の商談でテンプレを使い、また失注理由で検証します。
ハイブリッド構成で「打ち手」を決める型
月次レビューは、結論が流れやすい場です。そこで「本文+箇条書き+補足解説」の型で、必ず打ち手を確定させます。本文では、今月の失注の特徴を短くまとめます。箇条書きで打ち手候補を並べます。補足解説で、どの案件のどの情報が根拠かを示します。これにより、印象論が減り、実務に落ちます。
- 打ち手1:見積提出時に必ず「比較表(当社の強み)」を添付する
- 打ち手2:資金計画の不安が多い月は、ローン・補助金の説明順を標準化する
- 打ち手3:決裁者不在が多い月は、初回ヒアリングで意思決定者同席を取りに行く
補足解説です。打ち手1の根拠は、失注分類が「仕様差が伝わらない」に集中し、相手の言葉に「違いが分からない」「結局どちらが得か判断できない」が多い場合です。打ち手2の根拠は、失注分類が「予算超過」でも、相手の言葉に「ローンが通るか不安」「補助金の条件が分からない」が含まれる場合です。打ち手3の根拠は、ステータスが提案段階で止まり、決裁者が後から出てきて結論が変わるパターンが多い場合です。根拠が示せれば、現場も納得し、運用が続きます。
【月次レビュー議事録テンプレ(コピペ用)】
1) 今月の失注件数:
2) 上位の失注分類(上位3つ):
3) 失注ステータスの偏り(見積後/提案後/契約直前など):
4) 相手の言葉で多いフレーズ(3つ):
5) 今月決める打ち手(1つだけ):
6) 変更する提案テンプレ・資料(何をどう変えるか):
7) 来月の検証方法(どの項目で効きを見るか):
週次は10分の数字確認、月次は「打ち手を1つ決めて提案テンプレを更新する」までを固定し、失注データを現場に戻しましょう。
5. 案件管理システム(CRM)選定の判断軸と「できる/できない」整理


選定は機能比較より「入力導線」と「分析の出し方」を先に決める
案件管理システムの選定は、機能の多さで決めると失敗します。現場で重要なのは、入力導線が軽いか、分析が出しやすいか、権限と運用が作れるかです。ここでの「権限」は、誰が見られて誰が編集できるかの設定のことです。失注理由は営業のナレッジですが、誤った編集や閲覧制限の不足があると、データが壊れます。
失敗しやすいポイントは、導入前に「何を必須にするか」「会議で何を見るか」を決めず、ツールに合わせて運用がブレることです。改善のコツは、先に項目設計と会議の型を作り、その型を実現できるツールを選ぶことです。運用イメージとしては、デモでは「失注入力が30秒で終わるか」「分類別に件数がすぐ出るか」「未入力一覧が出るか」を確認します。
できること/できないことを表で先に合意する
導入時は期待値が膨らみ、現場から「これもできるはず」と要望が増えます。そこで、最初に「できること/できないこと」を表で整理し、社内合意を取ります。これにより、導入後の不満が減り、運用が続きます。
| 項目 | できること(初期運用) | できないこと(別対応が必要) |
|---|---|---|
| 失注理由の入力 | 分類(選択式)+短文メモ+次回やることを必須化 | 長文の商談録を全件で残す運用 |
| 分析の出し方 | 分類別件数、ステータス別失注割合、未入力一覧 | 自動で改善提案が出る仕組み(別途設計) |
| 現場との連携 | 同席チェックの短い入力、引き継ぎ項目の固定 | 工事原価や工程表まで完全統合(別システム連携) |
| 運用責任 | 営業責任者が週次で入力漏れ確認、月次でテンプレ更新 | 担当者任せの自由運用 |
【稟議テンプレ(導入目的の書き方)】
目的:失注理由を型化して蓄積し、成約率を上げるため
現状課題:失注理由が「価格」等の粗い記録で、改善行動に落ちない
導入範囲:営業のクローズ入力(必須項目のみ)+週次・月次レビュー
期待効果:値引き以外の打ち手が増え、提案テンプレが更新される
運用責任:営業責任者が入力漏れ確認と月次の打ち手決定を担当
評価指標:失注理由の入力率、上位分類の改善、成約率の推移
ツール選定は多機能より、失注入力が軽く、分類別集計と未入力一覧がすぐ出ることを最優先にしましょう。
6. まとめ:失注を資産に変えて、提案の勝率を上げる
判断軸の再確認と、明日からの一歩
失注を資産に変える判断軸は明確です。失注理由を「次回の提案で行動を変える単位」まで分解し、入力を最小セットにし、週次・月次で必ず提案テンプレに戻すことです。これが揃うと、「価格で負けた」から「比較表の不足で判断が止まった」「資金計画の不安が残った」まで見えるようになり、値引き以外の改善策が増えます。
明日から試せる一歩は、失注クローズ時の必須項目を5つに絞り、入力締め切りを「翌営業日午前」に固定することです。次に、月次レビューで打ち手を1つだけ決め、提案資料の型を1つ更新します。社内共有・定着の鍵は、入力した人が「会議で使われた」「提案が改善された」と実感できることです。失注データは集めるだけでは意味がありません。必ず現場の提案に戻して回しましょう。









