2024年問題の影響で、工務店の労務管理は「気づいたら超えていた」が許されなくなりました。現場は天候・工程都合で時間が前後しやすく、直行直帰や複数現場の掛け持ちも日常です。にもかかわらず、勤怠の記録が紙や口頭のままだと、残業代の計算や休日区分の判断が毎月ぶれます。
特に躓きやすいのは、休日出勤が「振休なのか代休なのか」などの区分が曖昧なまま給与締めを迎えることです。事務側が締め日に追いかけて確認しても、監督も職人も記憶頼りになり、結果として未払い残業や割増漏れ、逆に過払いが起きます。属人化が進むほど、社長・総務の確認工数も増えます。

現場が忙しくて打刻が抜けます。月末にまとめて聞き取りをしていて、残業代が合っているか不安です。



勤怠ソフトを入れれば自動で全部解決すると思っていましたが、結局運用が回らない気がします。
この記事では「上限規制を守るために、どのルールを決め、どの機能を選び、どの運用で回すか」を判断軸ごとに整理します
2024年問題で労務管理が「現場の段取り」に直結する理由


時間外上限規制のポイントを現場目線で押さえる
時間外上限規制は、時間外労働の上限を法令に沿って管理し、超過を防ぐ仕組みづくりが必須になります。時間外労働とは、所定労働時間を超えて働いた時間のうち、法律上の枠組みに沿って「残業」として扱う時間です。建設業は工程の波が大きく、工期末や検査前に残業が集中しやすいので、月単位の締め方だけでなく週単位の偏りも見ないと、気づいた時には超過寸前になります。
ここで重要なのは「残業をゼロにする」ではなく「超えてはいけない線を超えない運用にする」ことです。監督が段取りで吸収できる範囲を超えると、休日出勤が増え、休日区分の判断も難しくなります。結果として、割増賃金が発生する条件を満たしているのに、記録が不十分で計算できない状態になります。割増賃金とは、法定の条件を満たした時間外・休日・深夜労働に対して、通常より高い率で支払う賃金です。
工務店で起きがちな「ズレ」の実例
たとえば、朝は直行で現場入り、昼に資材引き取り、夕方に別現場へ移動という日があります。スマホで打刻できない運用だと、事務所に戻った時点でまとめて打刻し、移動時間が労働時間に含まれるのかが曖昧になります。労働時間とは、会社の指揮命令下で拘束されている時間で、移動でも業務指示があれば労働時間として扱います。こうした曖昧さが月末に積み上がると、残業代と休日管理の整合が取れなくなります。
また、休日出勤の扱いも要注意です。法定休日と所定休日が混在すると、同じ「休みの日に働いた」でも割増率や代替休日の扱いが変わります。法定休日とは、法律で付与が必要な週1日または4週4日の休日です。所定休日とは、会社が就業規則などで定めた休日で、法定休日とは別に設定されることがあります。現場側が「休みの日は全部同じ」と理解していると、事務側が区分の再確認で止まります。
労務管理は給与計算の問題ではなく、現場の段取りと休日の取り方を「超過しない形」に設計し直す作業です。
最初に決めるべき労務ルール設計:休日区分と残業の扱いを固定する
36協定と就業ルールの整合を取る
勤怠をシステム化しても、元のルールが曖昧だと入力が揺れます。まずは36協定と就業ルールをセットで確認しましょう。36協定とは、時間外・休日労働をさせるために会社と労働者側で結び、労基署へ届け出る協定です。現場では「繁忙期だけ増える」前提が多いので、協定の上限と実態のズレが出やすいです。
次に、所定労働時間と休憩の扱いを明文化します。所定労働時間とは、会社が通常勤務として定める労働時間です。休憩は「取ったつもり」ではなく、開始・終了の記録が残せる形にします。昼休憩が現場都合でずれる場合は、ルールとして「60分確保、分割可、最低○分単位で記録」など、運用できる粒度に落とします。ここが決まらないと、残業時間が毎月ブレて、上限管理の前提が崩れます。
【ルール整備チェックリスト(社内決裁前に確認)】
1. 所定労働時間(始業・終業)と休憩ルール(分割可否・記録方法)
2. 法定休日と所定休日の定義、休日出勤時の申請・承認フロー
3. 残業の事前申請が必要な条件(例:所定終業後30分超)
4. 深夜労働の扱い(22時以降の現場・移動・緊急対応)
5. 36協定の上限と繁忙期の見込み(工程表と照合)
振休・代休・休日出勤の区分を一本化する
休日関連は、名称が似ているため誤解が起きます。振替休日とは、あらかじめ休日を労働日に変更し、別の日を休日に振り替える運用です。代休とは、休日に働いた後に、代わりの休みを与える運用です。言い換えると、振休は事前に休日を入れ替える、代休は事後に休みを与える違いです。ここを現場と事務で共有し、勤怠システム上の入力項目も一致させます。
実務シーンでは「急な工程変更で日曜出勤になった」「施主都合で検査が休日になった」など、事前に決めきれないケースがあります。その場合でも、最低限「いつまでに区分を確定するか」を決めます。たとえば、休日出勤した当日中に監督が区分を暫定入力し、翌営業日までに総務が確定する運用にします。判断が遅れるほど、給与締めでズレが出ます。
【休日出勤の判断テンプレ(現場→総務の共通ルール)】
1. 出勤日が法定休日か所定休日かをまず確認する
2. 事前に休日の入替ができる場合は振替休日で処理する
3. 事前に決められない場合は「休日出勤(仮)」で当日入力し、翌営業日までに振休か代休かを確定する
4. 代休付与の期限(例:1か月以内)を統一する
勤怠管理ソフトの選び方:工務店に必要な「できること/できないこと」を見極める


現場に合う打刻手段を先に決める
選定で最も多い失敗は「機能が多い=安心」で決めて、現場が入力しないことです。工務店は事務所のPC打刻より、スマホ・タブレット・QR・GPSなどの現場打刻が現実的です。GPS打刻とは、位置情報を記録して打刻の正当性を担保する仕組みです。ただし、精度やプライバシー配慮が必要なので、常時追跡ではなく「打刻時のみ位置取得」など運用前提を確認します。
直行直帰が多い場合は、打刻漏れ時の修正申請が簡単であることも必須です。修正が総務の手入力になると、結局属人化が残ります。入力の責任は現場、承認は監督、締めは総務という役割分担を作り、ソフトがそれに沿うかを見ます。
| 判断項目 | できると理想 | できないと起きる問題 |
|---|---|---|
| 現場打刻(スマホ/QR/GPS) | 直行直帰でも当日打刻が定着する | 月末聞き取りが復活し、残業計算がぶれる |
| 休日区分(法定/所定/振休/代休)の入力 | 休日出勤の扱いが締め前に確定する | 割増漏れ・過払い・社内説明が混乱する |
| 申請・承認フロー(残業/休日出勤/修正) | 監督が現場で承認でき、総務の手戻りが減る | 総務が個別確認に追われ、締めが遅れる |
| 割増自動計算と明細出力 | 給与ソフト連携がスムーズになる | 手計算が残り、ミスと確認工数が増える |
| 締め日の固定とアラート | 上限超過の予兆を早めに潰せる | 超過直前に気づき、現場調整が間に合わない |
給与連携と割増計算の「二重管理」を避ける
残業代の計算は、勤怠→給与の連携でミスが減ります。ただし、勤怠ソフトと給与ソフトのどちらで割増計算を確定するかを決めないと、二重管理になります。みなし残業は「一定時間分の残業代を固定で支払う制度」ですが、固定時間を超えた分は別途支給が必要です。みなし残業の有無に関わらず、実残業の集計が正確にできる設計にしましょう。
また、各種手当との関係も整理します。現場手当や資格手当を「残業代の代わり」と誤解すると、未払い残業のリスクになります。未払い残業とは、法定の割増賃金を支払うべき時間があるのに、支払われていない状態です。ソフト選定では、割増対象の時間帯(時間外・休日・深夜)を分解して集計できるか、明細出力が監査に耐える形かを確認します。
【ソフト選定の稟議テンプレ(決裁者向け)】
目的:時間外上限規制の遵守と、残業代・休日管理の計算ミス削減
現状課題:打刻漏れ、休日区分の曖昧さ、月末聞き取り工数、割増計算の手戻り
選定条件:現場打刻、申請承認、休日区分入力、割増自動計算、アラート、給与連携
運用体制:入力=現場、一次承認=監督、締め=総務、月次確認=経営
期待効果:締め作業の短縮、支払ミス低減、超過予兆の可視化、監査対応力の向上
選定は「現場が当日入力できる打刻手段」と「休日区分+申請承認+割増計算が一気通貫で回るか」で決めましょう。
運用を回す設計:本文+箇条書き+補足解説で「締め日が楽になる」流れを作る
基本フローは「入力→申請→承認→確定」を固定する
ここからが定着の本番です。勤怠はツールより運用が勝ちます。運用イメージを先に固定し、例外処理も含めて回る形にします。おすすめは、日次で現場が打刻し、例外(残業・休日出勤・打刻修正)が発生したら、その場で申請まで終える運用です。申請は「記録の補強」で、あとから説明できる状態を作る行為です。
- 現場:当日中に出退勤と休憩を打刻する
- 現場:残業・休日出勤・修正が必要なら、その場で申請を起票する
- 監督:翌営業日までに申請を承認または差戻しする
- 総務:締め日前に区分を確定し、割増集計を確定する
- 経営:月次で上限超過の兆候と、工程の偏りを確認する
補足解説として、監督承認を「月末まとめて」にしないことがコツです。承認が遅いほど、休日区分の確定が遅れ、割増計算が手戻りします。差戻しが起きた場合は、現場がその日の記憶があるうちに修正できるよう、翌営業日までの期限を設けます。期限を決めることで、総務が締め日に追いかける作業が減ります。
打刻修正と休日出勤は「テンプレ申請」で迷わせない
例外の申請が自由記述だと、確認が増えます。テンプレ化して、必要情報が揃う形にしましょう。特に打刻修正は頻発しやすいので、修正理由と根拠(現場日報、写真、チャット履歴など)を添付できる運用にします。根拠とは、第三者が見ても事実確認ができる情報です。
【打刻修正申請テンプレ(現場用)】
対象日:YYYY/MM/DD 現場名:____
修正内容:出勤(__→__)/退勤(__→__)/休憩(__→__)
理由:例)電波不良で打刻できなかった/緊急対応で操作できなかった
根拠:例)現場日報/写真/施主との連絡履歴(添付)
承認者:監督名____
【休日出勤申請テンプレ(現場・監督用)】
出勤日:YYYY/MM/DD(法定休日/所定休日)
理由:例)検査対応/工程遅延の是正/緊急補修
予定作業:____ 予定時間:____
休日区分:振替休日(予定日__)/代休(付与期限__)/休日出勤(割増)
承認:監督____ 総務確認:____
残業代・休日管理で失敗しやすいポイントと、現場を止めない改善策


未打刻・後追い入力を「仕組み」で減らす
失敗の典型は、未打刻が出ても「忙しいから仕方ない」で放置し、月末に一括修正することです。月末修正は、休日区分や休憩の記憶が曖昧になり、総務の確認が増えます。改善策は、日次アラートと、未打刻の扱いを固定することです。たとえば、当日未打刻は翌朝に自動通知し、当日中に修正申請まで終えるルールにします。
運用上の判断軸として、未打刻が出る現場は「打刻手段が合っていない」可能性があります。スマホ打刻が難しい環境なら、QR打刻や共有タブレットへの切替を検討します。QR打刻とは、現場に掲示したコードを読み取って打刻する方法で、操作が短く済みます。現場の負担が減るほど、入力率が上がります。
割増の二重計算と「手当で相殺」の誤解を潰す
もう一つの失敗は、給与担当が独自のExcelで割増を計算し、勤怠ソフトの集計とズレることです。ズレが出たまま支給すると、社員からの問い合わせに答えられません。改善のコツは「割増計算の正はどこか」を一本化することです。勤怠ソフトで確定するなら、給与側は取り込むだけにします。給与側で確定するなら、勤怠は集計用に割り切ります。
また、「現場手当があるから残業代はいらない」という誤解も起きます。残業代は法定の条件を満たした時間に対する支払いで、手当で代替できないケースが多いです。ここは社内説明のテンプレを作り、監督と総務が同じ言葉で説明できるようにします。説明が揃うと、運用が荒れません。
【社内周知テンプレ(監督・現場向け)】
・残業代は「時間外・休日・深夜」の条件を満たした時間に対して、法律に沿って支払う賃金です。
・手当の有無に関わらず、実際の労働時間の記録が必要です。
・休日出勤は「法定休日か所定休日か」「振休か代休か」で扱いが変わるため、当日入力と翌営業日までの確定を徹底します。
・未打刻や修正は、テンプレ申請で根拠を添えて起票します。
定着させる管理指標:上限超過を防ぎ、現場の回し方を改善する
月次で見るべき指標を3つに絞る
勤怠システムを入れたら、経営と総務は「見過ぎない」ことが大事です。指標を増やすと確認が続きません。まずは3つに絞りましょう。
- 時間外の累計と、上限までの残り時間
- 休日出勤回数と、その区分の確定率
- 未打刻・修正申請の件数
未打刻が多い部署や現場は、打刻手段かルールが合っていません。
具体例として、検査前に休日出勤が増える月は、工程計画の段階で「休日稼働を前提にするのか」「人員を増やして平日に収めるのか」を決めます。判断が遅いほど、現場が突発で回し、結果的に時間外が増えます。勤怠データを工程会議に持ち込み、次月の山をならす材料にします。
運用の定着は「役割」と「締め」の固定で決まる
定着しない原因は、入力責任が曖昧なことと、締めが揺れることです。入力は現場、承認は監督、確定は総務、最終確認は経営と役割を固定します。締め日も固定し、締め日以降の修正は「例外扱い」にしてハードルを上げます。例外扱いとは、通常フローではなく特別承認が必要な扱いです。これにより、現場が当日入力を優先する動機が生まれます。
失敗しやすいポイントは「忙しい月だけルールが崩れる」ことです。忙しい月ほど、ルールを守らないと超過リスクが上がります。そこで、繁忙期の運用だけ先に決め、監督が現場で回せる粒度に落とします。たとえば、繁忙期は残業事前申請の基準を「所定終業後15分超」に変更し、申請の抜けを減らすなど、現実的な調整をします。
定着の鍵は、見る指標を絞り、役割と締め日を固定し、繁忙期こそルールが崩れない運用にすることです。
まとめ:上限規制を守りながら現場を回すための最短ルート


2024年問題の対策は、勤怠ソフトの導入だけでは完結しません。法定休日と所定休日の区分、振休と代休の判断、残業の申請承認、割増計算の基準を「ルール設計+機能選定+運用フロー」で一本化することが判断軸です。判断が曖昧なまま進めると、入力が揺れ、締め作業が戻ります。
明日から試せる一歩は、休日出勤の判断テンプレと打刻修正申請テンプレを先に配り、例外処理を揃えることです。例外が揃うと、月末の確認が減り、現場も総務も楽になります。最後に、社内共有は監督を起点に回し、経営は月次で指標を3つだけ確認しましょう。回る形に落とせば、上限規制を守りながら現場を止めずに運用できます。









