工務店の利益率が下がる原因は、値引きや原価高騰だけではありません。見積と実際の原価がどこでズレたかが分からない状態が続くと、次の現場でも同じミスを繰り返し、気づいたときには利益が消えています。
特に「実行予算は作ったが更新されない」「発注書は出したが請求書の紐づけが曖昧」「現場で追加工事が増えたが見積に戻していない」といった属人化が起きると、原価の集計が月末まで確定しません。請求書(invoice)が紙・PDF・メールに散らばるほど、事務負担も判断の曖昧さも増えます。
数字管理をデジタル化する目的は、難しい分析ではありません。現場が回りながら、見積と実行予算の差異を毎月見える化し、次の判断を速くすることです。

見積は出せているのに、完工後に利益が合わないです。どの費目でズレたか追えないので、次の見積が怖いです。



原価管理ソフトを入れれば自動で正確になると思っていました。入力が増えて現場が止まるなら意味がないですよね。
見積・実行予算・発注・請求を連動させるための判断軸と、入力ルールを社内で回すゴールを整理します
見積と実行予算がズレる原因を先に分解する


ズレが生まれる「入口」を固定しないと修正できない
見積と実行予算のズレは、完工後に突然発生するのではなく、入口で生まれます。実行予算は「この工事にいくら使ってよいかを、見積内訳の粒度で割り当てた予算」です。つまり入口は、見積の内訳項目と、実行予算の費目の粒度が一致しているかです。
実務で多いのは、見積は「工種一式」なのに、発注・請求は「材料」「外注」「諸経費」に分かれて届くケースです。これだと請求書(invoice)をどこに入れるかが担当者の判断になり、月ごとに集計先が揺れます。揺れた結果、差異が出ても原因が特定できません。
利益率が崩れる連鎖は「追加・変更・未計上」から起きる
利益率が崩れる典型パターンは、追加工事の見積反映漏れ、値引きの根拠が残らない、請求書の計上遅れの3つです。特に計上遅れは厄介です。月次で原価が確定しないと、赤字の芽を翌月まで持ち越し、発注判断が遅れます。
改善のコツは、ズレの種類を「単価差」「数量差」「設計変更(追加・減)」「分類ミス」「未計上」に分け、必ずどれかに当てはめる運用にすることです。分類できれば、次の現場の見積に反映できます。運用イメージとしては、月次締めで差異が出た費目だけを確認し、全件を見直さない形にしましょう。
見積と実行予算のズレは「入口の粒度不一致」と「追加・未計上」が原因になりやすいので、まずズレの種類を固定して原因を必ず分類しましょう。
原価管理ソフトで「見積→実行予算→発注→請求」を連動させる設計
ソフト導入前に決めるべきマスタは3つだけ
原価管理ソフトは万能ではありません。強みは「同じキーで紐づけ続ける」ことです。キーとは、案件(工事番号)、費目(工種・科目)、取引先の3つです。ここが揃うと、見積の内訳と実行予算、発注、請求書(invoice)が一本につながります。
専門用語の「マスタ」は、会社で共通に使う選択肢の一覧です。まずは費目マスタを作り、見積の項目名と同じ言葉に寄せましょう。次に取引先マスタを整え、請求書の表記ゆれ(株式会社/(株)など)を吸収します。最後に案件番号のルールを統一し、現場と事務が同じ番号で会話できる状態にします。
【判断テンプレ】原価管理ソフト導入前チェック(コピペ用)
1. 案件番号の付番ルールは全員が説明できますか(例:YYYY-現場名-通番)
2. 見積の内訳項目は「費目マスタ」と同じ言葉にできますか(新語は月1回まで追加)
3. 請求書(invoice)の受領窓口は1つにできますか(メール/紙/PDFの集約先)
4. 発注書を出さない取引は例外ルールを決めましたか(小口・緊急対応など)
できること/できないことを表で整理して期待値を揃える
導入時に失敗しやすいのは、「ソフトが自動で正解を作ってくれる」と思い込むことです。ソフトが得意なのは集計と履歴の一元化で、判断そのものは社内ルールが必要です。できること/できないことを先に共有し、入力工数を増やさずに運用する設計にしましょう。
| 項目 | 原価管理ソフトでできること | できないこと(別ルールが必要) |
|---|---|---|
| 見積→実行予算の連動 | 見積内訳を取り込み、費目ごとに予算化して差異を表示 | 内訳の粒度が粗いままでは差異の原因特定はできない |
| 発注・請求の紐づけ | 案件番号・費目・取引先で紐づけ、月次で原価を集計 | 請求書の表記ゆれ、番号未記入は自動では直らない |
| 承認(ワークフロー) | 申請・承認履歴を残し、差戻しも記録 | 誰が何を承認するかの権限設計は会社側で決める |
| 追加・変更管理 | 追加見積と原価を同一案件で追跡 | 追加を見積に戻す運用がないと利益は守れない |
「ワークフロー」は、申請から承認までの手順を固定する仕組みです。現場のスピードを落とさないために、承認が必要な金額ラインだけを決め、少額は現場判断で進める形にしましょう。運用イメージは、日々は入力を軽く、月次で差異を見る設計です。
入力ルールを徹底する:費目・工種・請求書(invoice)の迷いを消す


費目と工種は「見積の言葉」に寄せて統一する
入力ルールが曖昧だと、ソフト導入後に数字が余計に合わなくなります。ポイントは、費目(原価を集計する箱)と工種(作業の種類)を分けすぎないことです。費目は「利益を判断したい単位」に合わせ、見積の内訳と同じ言葉で揃えましょう。
失敗しやすいのは、担当者ごとに新しい費目を増やすことです。費目が増えるほど、比較ができず、差異の原因が見えません。改善のコツは、費目の追加は月1回の見直し会議だけで行い、現場が勝手に増やさないルールにすることです。運用イメージとしては、現場は選択式、事務が例外だけ補正する形が安定します。
【運用ルールテンプレ】費目マスタ追加・変更ルール(コピペ用)
・費目の新規追加は月1回の定例でのみ実施する
・新規追加の条件は「見積に毎月3回以上登場する」こと
・似た費目がある場合は統合を優先し、名称は見積の表記に合わせる
・現場の入力は既存費目から選択し、迷う場合は「仮:その他」に入れて月次で振替する
請求書(invoice)入力は「必須5項目」を決めてチェックする
請求書(invoice)は、原価の根拠になる証憑です。証憑は、支払いの根拠になる書類のことです。入力で迷いが出るのは、請求書に必要情報が揃っていないか、社内の必須項目が決まっていないときです。必須項目を5つに絞り、チェックリストで漏れを止めましょう。
- 案件番号(工事番号)
- 費目(見積の内訳と同じ名称)
- 取引先名(マスタ選択)
- 請求日・支払予定日
- 金額(税区分を含む)
現場から届く請求書に案件番号がない場合は、事務が毎回推測すると属人化します。改善のコツは、取引先へ「案件番号の記載」を依頼し、記載がない場合は差戻すルールにすることです。運用イメージとしては、受領窓口を一本化し、入力者が迷う前に差戻せる状態を作りましょう。
【現場・事務共通テンプレ】請求書(invoice)受領フロー(コピペ用)
1. 請求書は受領窓口(共有メール等)に集約する
2. 案件番号の記載がない請求書は、取引先へ確認してから計上する
3. 計上時は必須5項目を満たさない場合は「未計上」ラベルで保留する
4. 月次締めの2営業日前に未計上一覧を現場へ共有し、確定させる
月次で差異を潰す:実行予算と実績のズレを翌月に持ち越さない
月次締めは「締め日」と「締め方」を固定する
原価管理を回す鍵は月次締めです。月次締めは、月末時点の原価を確定させて差異を見える化する作業です。締め日が毎月ぶれると、未計上が増え、差異が信用されなくなります。まずは「毎月○日締め」「締めの2営業日前に未計上一覧を出す」を固定しましょう。
失敗しやすいポイントは、全案件を同じ熱量で追うことです。改善のコツは、差異が出た費目だけを見る運用にすることです。例えば、差異が大きい上位5費目だけを会議で確認し、残りは翌月に繰り越さないルールにします。運用イメージは、事務が一覧を作り、現場が原因を選択式で回答する形が最短です。
本文+箇条書き+補足解説で差異の原因を定型化する
差異分析は、言い訳大会にすると続きません。原因を定型化し、次の手に落とし込みましょう。差異が出たら、まず「どの種類のズレか」を選び、次に「誰が何を直すか」を決めます。
- 単価差:仕入単価が想定より高い(発注先の変更、相場変動)
- 数量差:想定数量と実施工数量が違う(拾い漏れ、施工条件の違い)
- 設計変更:追加・減が発生した(追加見積の反映漏れ)
- 分類ミス:費目の入れ先が違う(入力ルール違反)
- 未計上:請求書(invoice)が未到着・未処理(締め前回収不足)
補足解説として、現場の負担を抑えるには「原因の文章を考えさせない」ことが重要です。上の選択肢から選び、必要なら一言だけ追記する運用にしましょう。これなら現場監督がスマホで回答でき、差異の潰し込みが月次で回ります。
【報告テンプレ】差異報告コメント(コピペ用)
案件番号:____
差異費目:____(見積/実行予算の内訳名)
差異種類:単価差/数量差/設計変更/分類ミス/未計上
一次対応:追加見積を作成する/取引先を見直す/入力を振替する/請求書回収を依頼する
期限:____(月次締めまでに実施)
月次締めは「締め日固定」と「差異が出た費目だけ確認」を徹底すると、翌月に持ち越す未計上が減り、利益のブレが早期に止まります。
現場と事務が止まらない分担:入力を最小化し、承認で歯止めをかける


現場入力は「最小3点」に絞ってスピードを守る
原価管理が定着しない理由は、現場の入力が重くなることです。現場が入力するのは、発注や請求の判断に必要な最小限に絞りましょう。具体的には「案件番号」「費目」「金額(見込み)」の3点です。細かい税区分や支払条件は事務が整える役割にします。
失敗しやすいポイントは、現場に完璧な請求書入力を求めることです。改善のコツは、現場は「発注予定・追加発生の気配」を早く残す役割にし、事務が請求書(invoice)で確定させる二段構えにすることです。運用イメージとしては、現場が追加を登録した時点で、追加見積の作成タスクが自動で起きる流れにします。
【現場ヒアリング項目テンプレ】追加・変更が出たときの聞き取り(コピペ用)
・発生理由(施主要望/現場条件/設計変更)
・対象範囲(どの工種・どの部位)
・概算金額(材料/外注/その他のどれが増えるか)
・工期影響(あり/なし、ある場合は何日)
・見積反映(追加見積を作成する/しない、その理由)
承認(ワークフロー)は金額ラインで区切り、例外を残す
承認フローが重いと、現場は迂回します。だからこそ「何を承認対象にするか」を金額ラインで切りましょう。例えば、追加発注が5万円以上は所長承認、20万円以上は役員承認などです。ここで重要なのは、緊急対応などの例外ルールを最初から書いておくことです。
専門用語の「稟議」は、社内で支出の承認を取る申請書です。稟議の型をテンプレ化し、入力項目を少なくすると、承認が早くなり、履歴が残ります。運用イメージとしては、承認後に発注番号が自動採番され、請求書(invoice)が来たときに迷わず紐づけできる状態を作ります。
【稟議テンプレ】追加発注・追加工事の承認申請(コピペ用)
案件番号:____ 費目:____
申請内容:追加発注/追加工事(どちらか)
理由:施主要望/現場条件/設計変更(選択)
金額:____円 発注先:____
見積反映:する/しない(しない場合の理由:____)
承認者:所長/部長/役員(金額ラインに従う)
まとめ:利益率を下げない原価管理は「連動」と「ルール固定」で作る
判断軸の再確認:連動させるためのキーは3つ
見積と実行予算のズレを止める判断軸は明確です。案件番号・費目・取引先の3つのキーで、見積→実行予算→発注→請求書(invoice)を紐づけ続けることです。ソフトは集計を助けますが、正確さは入力ルールで決まります。
明日から試せる一歩:未計上一覧を出し、差異を分類する
最初の一歩は大がかりな導入ではありません。今月分の請求書(invoice)を集約し、未計上一覧を作り、差異が出た費目だけを「単価差/数量差/設計変更/分類ミス/未計上」に分類しましょう。これだけで、次の見積に反映できる材料が残ります。社内共有は、テンプレを使って言葉と判断を揃えるところから始めると定着します。
明日からは「未計上一覧の作成」と「差異の分類」を固定し、テンプレで社内の言葉を揃えて、原価管理を属人化させずに回しましょう。








