社員3人規模の工務店で新卒採用に挑戦すると、求人票を出しただけで応募が来ない、面接で何を見ればよいか分からない、内定を出しても辞退されるといった壁に当たりやすいです。特に現場が忙しい会社ほど、採用の優先度が後回しになり、気づけば「誰か良い人がいれば」状態になってしまいます。
今回の事例は、社員3人の工務店が初めて新卒1名の採用に成功し、入社後も戦力化までつなげた記録です。ポイントは、広告費や派手なブランディングではなく、現場の魅力を言語化して、学生が不安に感じる点を先回りで解消したことです。

求人媒体に出しても応募がゼロです。小さな会社だと新卒は無理なのでしょうか。



新卒は大手にしか行かない印象です。面接も何を聞けばよいか分からないです。
この記事では「小さな会社でも選ばれる採用設計」と「内定辞退を減らす運用」を、明日から社内で回せる形で整理します。
事例の前提と、採用が止まっていた原因を分解する


会社の状況と採用要件のズレ
対象の工務店は、代表、現場監督兼職長、事務兼広報の3人体制でした。受注は安定していましたが、現場監督の負荷が限界に近く、現場段取り、協力会社手配、施主対応まで一人に寄っていました。そこで「監督補助を新卒で採る」と決めたものの、最初は「明るく元気で現場が好きな人」といった曖昧な要件のままで動いてしまい、求人票の内容が薄く、学生に刺さらない状態でした。
採用要件とは、採る人の条件を決める枠組みのことです。ここが曖昧だと、面接で判断がぶれて、内定を出すまでに時間がかかり、辞退の確率が上がります。
失敗しやすいポイントは「現場の当たり前」が言語化されていないこと
工務店の採用が止まりやすい理由は、仕事内容が分かりにくいことにあります。現場の人は「段取り」「納まり」「職人さんとの段取り替え」などを当たり前に話しますが、学生からすると未知の言葉です。専門用語は必ず言い換えが必要です。例えば段取りは、作業が止まらないように前後の準備と順番を決めることです。納まりは、部材同士がきれいに収まるように寸法と手順を整えることです。
この会社も最初は仕事内容の説明が「現場管理をします」「職人さんとやり取りします」だけでした。学生は入社後の一日が想像できず、不安が勝って応募しません。
改善のコツは「採用を業務化」して、意思決定を減らすこと
人が少ない会社ほど、採用は属人化します。代表が忙しいと止まり、再開してもまた止まります。そこでこの会社は、採用をイベントではなく業務として扱い、月にやることを固定しました。運用イメージは、月初に学校連絡、月中に説明資料更新、月末に面接の振り返りというリズムです。これで「いつやるか」「何をやるか」の迷いを減らしました。
採用が止まる原因の切り分けテンプレ
1. 応募が来ない(露出不足か訴求不足)
2. 面接で見極められない(要件定義不足)
3. 内定辞退が多い(不安解消と接点不足)
4. 入社後に合わない(仕事内容の認識ズレ)
最初にやるべきは「採用要件の曖昧さ」と「学生が不安に感じる点」を言語化し、採用を月次業務として回す形に落とすことです。
採用方針を1枚にまとめて、学生に伝わる軸を作る
採用目的と配属先の期待値を揃える
この会社は最初「監督の補助」と言いながら、実際には施主連絡や現場写真整理など事務寄りの業務も多く、現場側と事務側で期待値がずれていました。そこで採用目的を「現場監督の時間を週10時間取り戻す」と定量に置きました。目的が数値になると、任せる業務が具体化します。現場写真整理は、工事の進捗を記録する作業です。これを任せるだけでも監督の負荷が下がります。
ペルソナとEVPを作り、会社の強みを誇張せずに見せる
ペルソナは、狙う人物像を具体的な一人として定義することです。この会社は「建築学科の学生」に絞らず、「ものづくりが好きで、現場と設計の間に立って調整する仕事に興味がある学生」と定義しました。EVPは、働く価値の約束を一文で示すことです。この会社のEVPは「小規模だからこそ、現場の判断と成長が早い」でした。大手と比べて勝てない要素を追わず、成長の速さと距離の近さに焦点を当てました。
失敗しやすいのは「良いことだけを書く」こと
学生は、良いことだけの説明に敏感です。小さな会社は特に、残業、休日、現場の大変さが気になります。そこでこの会社は、忙しい時期はあることを認めた上で、繁忙期の乗り切り方とフォロー体制をセットで提示しました。例えば「工程が詰まる時期は、毎朝15分の段取りミーティングで優先順位を決め、休日出勤が出た場合は翌週に振替を固定する」といった運用です。これにより、現実味が増し、信頼が上がりました。
採用方針1枚シート テンプレ
1. 採用目的(例:監督の稼働を週10時間削減)
2. 任せる業務(現場写真整理、工程表更新、協力会社への確認)
3. 期待する行動(報連相の頻度、期限厳守)
4. 教える範囲と期間(3か月で基礎、6か月で独り立ち)
5. 会社が約束すること(育成担当、週次1on1、見学機会)
方針は「目的を数値化」「強みは誇張せず一文化」「不安点は運用とセットで提示」の3点で揃えると、面接判断と学生への訴求が同時に楽になります。
母集団形成のやり方を変えて、応募ゼロから脱出する


母集団形成は「応募者の集まり」を作る工程です
母集団形成とは、選考に進む候補者の集まりを作る工程です。求人媒体に出すだけでは、小規模工務店は埋もれやすいです。この会社は、学校との接点と現場見学の設計に寄せました。結論から言うと、応募を増やすより「説明会参加者」を増やす方が現実的でした。応募は最終行動ですが、説明会参加は心理的ハードルが低いからです。
| 施策 | できること | できないこと | 向く工務店 |
|---|---|---|---|
| 求人媒体(有料) | 露出を増やせる | 仕事内容の理解は深まりにくい | 採用広報の文章が作れる |
| 学校訪問・求人票提出 | 信頼ベースで紹介が起きる | 即効性は低い | 地域密着で継続できる |
| 現場見学会 | 仕事理解と志望度が上がる | 準備に手間がかかる | 見せられる現場がある |
| SNS発信 | 認知が積み上がる | 短期で応募は増えにくい | 写真や動画が撮れる |
本文+箇条書き+補足解説で、説明会の型を固定する
この会社が効いたのは、説明会の内容を毎回同じ型で話せるようにしたことです。口頭説明は属人化しやすいので、資料と話す順番を固定しました。説明会で扱う内容は、学生が判断に必要な情報に絞りました。
- 一日の流れを、朝礼から終業まで時系列で説明する
- 新卒が最初の3か月でやる作業を具体的に出す
- 失敗しやすい例と、社内のフォロー方法をセットで伝える
- 現場見学で見るポイントを先に予告する
補足として、学生が不安に感じるのは「放置されること」と「怒られること」です。そこで、この会社は育成担当を一人に固定し、週1回の短い面談を必ず入れました。1on1は、上司と個別に話して困りごとを早めに潰す面談です。短時間でも、継続すると安心感が積み上がります。
学校対応は「メール文面」と「返信ルール」で差が出る
学校とのやり取りは、返信の速さと丁寧さが評価になります。現場が忙しい会社ほど返信が遅れがちなので、文面をテンプレ化しました。運用イメージは、問い合わせは当日中に一次返信、資料送付は翌営業日まで、見学日程は候補日を3つ提示です。これだけで、学校側の信頼が上がり、紹介につながりやすくなります。
学校向けメール テンプレ:〇〇学校 就職ご担当者様 お世話になっております。〇〇工務店の〇〇です。貴校の学生様向けに、現場見学と仕事内容説明(60分)を実施しております。建築学科以外でも、ものづくりや現場調整に興味がある学生様を歓迎しております。ご都合のよい日程候補を3つお送りしますので、ご調整いただけますと幸いです。資料も併せて送付いたします。よろしくお願いいたします。
母集団形成は「応募を待つ」ではなく「説明会参加者を増やす」に切り替え、学校連絡と見学会をテンプレと返信ルールで業務化すると前に進みます。
面接設計を整えて、内定判断と辞退率を同時に改善する
評価項目は3つに絞り、質問を固定する
この会社は当初、面接で雑談が多く、評価が感覚になっていました。そこで評価項目を3つに絞りました。1つ目は報連相の型が作れそうか、2つ目は段取り思考があるか、3つ目は安全意識があるかです。報連相は、報告・連絡・相談を定期的に行うことです。段取り思考は、先に必要な準備を考え、遅れを防ぐ発想です。安全意識は、危険を予測して手順を守る姿勢です。
質問も固定しました。例えば段取り思考は「期限のある課題をどう進めたか」を聞き、具体行動を掘ります。報連相は「困った時に誰にどう相談したか」を聞きます。安全意識は「ルールを守る理由をどう考えるか」を聞きます。これで面接官が違っても評価が揃います。
失敗しやすいのは、会社説明が遅くて不安が残ること
内定辞退が起きる理由の多くは、学生側の不安が残ったまま時間が空くことです。小規模工務店は面接回数を増やすより、面接の中で不安を潰し切る方が効果的です。この会社は、一次面接の最後に「不安トップ3」を必ず聞き、次回までに回答資料を用意しました。曖昧にせず、数字と運用で説明しました。例えば残業は「繁忙期の週は何時間くらい」「代休の取り方はどうするか」を具体化しました。
運用イメージは「面接後24時間以内の連絡」をルール化する
候補者対応はスピードが命です。そこで、この会社は面接後24時間以内に必ず連絡するルールにしました。合否に関係なく、次の案内とお礼を送り、学生の熱が冷めないようにしました。ATSは応募者管理システムのことですが、小規模ならスプレッドシートで代替できます。大事なのはツールではなく、連絡の期限を決めることです。
面接評価シート テンプレ
評価軸1 報連相(具体例があるか、相談相手の選び方)
評価軸2 段取り(期限逆算、優先順位、詰まりの回避)
評価軸3 安全意識(ルール順守、危険予測)
総合判定(内定/保留/見送り)
保留の場合の追加確認項目(現場見学、再面談の目的)
- 面接官は2名までにして、質問の順番を固定する
- 面接後の連絡は24時間以内と決める
- 学生の不安トップ3を毎回回収し、次回までに資料で回答する
内定後フォローで「辞退」と「早期離職」を防ぐ


内定者フォローはオンボーディングの前段として設計する
オンボーディングは、新人が早く仕事に慣れて戦力化するための受け入れ設計です。内定者フォローは、その前段として「関係性」と「理解」を作る期間です。この会社は、内定から入社までの接点を月2回に固定しました。内容は、現場見学、先輩との短い面談、入社後の一週間の説明です。頻度を決めることで、忙しくても実行できます。
失敗しやすいのは、連絡が途切れて他社に流れること
内定後に連絡が薄いと、学生は不安になり、他社の内定に傾きます。特に小規模工務店は「本当に育ててもらえるのか」が不安です。この会社は、内定者が質問しやすい窓口を一人に固定し、返信の目安を「原則24時間以内」と決めました。さらに、入社後に必要な準備物や服装、現場での注意点を事前に渡し、想像できる状態を作りました。
社内で回すための運用は「カレンダー登録」と「担当割り」
内定者フォローは、担当者の善意に任せると抜けます。そこでこの会社は、内定承諾日に「入社日までの接点」をまとめてカレンダー登録し、担当を割り振りました。事務が日程調整、現場が見学対応、代表が月1回の面談と役割を分けました。これで、誰か一人に負担が偏らず、継続できました。
内定者フォロー運用ルール テンプレ
1. 接点頻度(月2回)
2. 返信期限(原則24時間以内)
3. 共有事項(見学内容、質問、懸念点)
4. 担当割り(事務:日程、現場:案内、代表:面談)
5. 入社前に渡す資料(初週スケジュール、安全ルール、用語集)
内定通知時の注意書き テンプレ:本通知は内定のご連絡です。入社日、配属、労働条件は別途書面で提示し、相互確認の上で確定します。不明点は遠慮なくご質問ください。入社までの期間は、現場見学と面談を通じて仕事内容の理解を深めます。
- 内定承諾日に、入社までの接点をまとめて予定化する
- 窓口担当を固定し、返信期限を決める
- 入社後の初週スケジュールを事前に渡し、不安を減らす
内定後は「接点頻度」「返信期限」「担当割り」をルール化し、関係性と仕事理解を先に作ると、辞退と早期離職の両方を減らせます。
まとめ|小さな工務店が新卒に選ばれるための判断軸
社員3人の工務店でも、新卒採用は可能です。鍵は、採用を気合いではなく業務として設計し、学生が判断できる情報を揃えることです。具体的には、採用目的を数値で置き、任せる業務と育成範囲を明確にし、説明会と学校対応をテンプレ化して回すことが効きました。面接は評価軸を絞って質問を固定し、面接後24時間以内の連絡で不安を残さない運用にすると、内定辞退が減ります。
明日から試せる一歩は、採用方針1枚シートを作り、現場と事務で期待値を揃えることです。その上で、学校向けメールテンプレを用意し、返信期限を決めましょう。社内共有は、テンプレとルールを一つのファイルにまとめ、月初に5分だけ確認する場を作ると定着しやすいです。









