設計士の採用は、求人を出せば応募が来る時代ではありません。特に小さな工務店では、採用担当が専任でいないことも多く、現場と兼務で進めるうちに、募集要件が曖昧になり、面接の判断基準もぶれてしまいます。
その結果、紹介会社に頼ってコストが膨らむ、面接まで進んでもミスマッチで辞退される、入社後に「思っていた仕事と違う」と早期離職される、といった負の連鎖が起きやすいです。現場が躓くポイントは「大手と同じ土俵で比較される状態を放置すること」です。

求人票に「自由度が高い」「やりがいがある」と書いたのに、応募が増えません。何をどう変えればいいですか。



大手のほうが年収も福利厚生も上ですし、小規模は採用で勝てないですよね。
この記事では「大手と比較される前に選ばれる」ための判断軸と、魅力の言語化から運用までのゴールを整理します
小さな工務店が設計士採用で苦戦する原因を分解する


採用課題は「母集団不足」ではなく「比較軸の設定ミス」です
採用がうまくいかないとき、「応募数が少ない」と捉えがちです。しかし実務では、応募数そのものより、比較のされ方が問題になっているケースが多いです。大手と同じ言葉で募集すると、候補者は年収・知名度・福利厚生で比較します。ここで負けるのは当然です。
小さな工務店が勝てるのは、比較項目を変えたときです。例えば、設計の裁量、顧客との距離、意思決定の速さ、工事部との一体感、地域での実装力などです。つまり、採用の土台は「どの尺度で選ばれる会社にするか」を先に決めることです。
現場で起きがちな失敗パターンと、その根本原因
よくある失敗は、求人票を人事目線だけで作り、現場が欲しい人物像とズレることです。次に多いのは、面接で「人柄が良い」「受け答えが丁寧」といった印象で採否を決めてしまい、設計スタイルや現場連携の相性を見ないことです。さらに、入社後の進め方が決まっておらず、最初の1か月が放置に近い状態になることもあります。
工務店の実務シーンでは、設計士は「営業同席」「打合せ」「図面・仕様決め」「申請」「現場対応」まで横断します。ここで判断軸が曖昧だと、本人の得意領域と任せたい領域が噛み合わず、疲弊します。改善のコツは、採用を一度「業務設計」として扱い、役割・権限・期待成果を定義することです。
- 募集要件が抽象的で、応募者が自己判断できない
- 面接質問が毎回変わり、比較できない
- 現場との連携方法が決まらず、設計士が孤立する
採用は「応募を増やす」より先に、「大手と違う比較軸で選ばれる状態」を設計してから動かしましょう。
設計士が転職で重視するポイントを整理する
設計士が求めるのは「裁量」と「成果が見える手触り」です
設計士は年収だけでなく、仕事の進め方と成長機会を重視します。特に小規模の魅力は、意思決定が早く、設計の提案が形になりやすいことです。例えば、社長や工事責任者と同じテーブルで仕様を決め、すぐに現場へ反映できる環境は、大手では得にくい体験です。
ただし「自由度が高い」は危険な言葉です。自由度は、基準がないことと紙一重だからです。自由度を魅力として伝えるなら、「自由の範囲」と「守る基準」をセットで言語化します。ここが曖昧だと、候補者は不安になり、辞退の原因になります。
タイプ別に刺さる訴求が違うため、ペルソナを分けて考える
ペルソナとは、採用したい人物像を「経験・志向・転職理由」まで具体化した設定のことです。設計士と一口に言っても、得意領域は様々です。例えば、意匠提案が強い人、申請や法規に強い人、現場納まりに強い人、顧客対応が得意な人などです。
失敗しやすいのは、「全部できる人」を求めてしまうことです。小さな工務店ほど、役割分担が薄く、万能型を求めがちです。しかし、万能型は市場に少なく、採用単価が上がります。改善のコツは、会社の弱点を埋める採用か、強みを伸ばす採用か、どちらかに寄せることです。運用イメージとしては、社内で「今期は法規と申請を強化する」「来期は提案力を強化する」と採用テーマを決め、求人票と面接軸を揃えます。
設計士ペルソナ整理テンプレ(社内会議でコピペして使う)
1)採用したいタイプ:意匠提案型/申請・法規型/現場納まり型/顧客折衝型(いずれか1つに丸)
2)任せたい業務:初回提案・基本設計/実施設計・申請/現場打合せ・納まり確認/仕様決め・予算調整
3)入社後3か月の期待成果:提案同席○件/確認申請○件/現場定例参加○回/標準仕様の整備○本
4)採用で絶対に譲れない条件:例)法規チェックの精度/顧客とのコミュニケーション/現場との調整姿勢
大手にはない魅力を言語化する差別化戦略


EVPを作ると、求人票・面接・定着が一本化します
EVPとは、社員が会社で得られる価値を短い言葉にまとめた「働く理由の約束文」のことです。これがないと、求人票は抽象的になり、面接の説明も人によって変わり、入社後の期待値もぶれます。小さな工務店がやるべきは、大手に対抗する制度づくりではなく、仕事の価値を統一した言葉にすることです。
工務店の実務シーンで価値になりやすいのは、顧客の暮らしに近い提案、地域条件を踏まえた実装、工事部と一体で改善できるスピード、そして設計が会社の顔になる体験です。失敗しやすいのは、理念だけで語り、日々の業務に落ちないことです。改善のコツは、現場の会話から「繰り返し出てくる良さ」を拾い、短いフレーズにすることです。
本文+箇条書き+補足解説で、魅力を「誤解なく」伝える
例えば「顧客との距離が近い」を売りにするなら、良い面だけでなく、求められる姿勢もセットで伝えます。ここを隠すと、入社後にギャップが生まれます。次の形で文章を組むと、求人票や採用ページでも誤解が減ります。
- 魅力:打合せの主導権を設計が持ち、提案の反応をその場で得られます
- 条件:顧客の要望整理と優先順位付けを、設計が主体的に行います
- 支援:標準仕様と見積ルールを整備し、判断の迷いを減らします
補足解説として、設計士が不安に感じやすい「責任の重さ」を、会社の仕組みで受け止める姿勢を示します。例えば、仕様決めの基準、原価の判断ライン、現場変更時のルールなどを明文化しておくと、裁量が「放任」ではないと伝わります。運用イメージは、月1回の設計・工事レビューで、提案と現場のズレを早めに修正する体制を組むことです。
魅力棚卸しテンプレ(現場ヒアリング用)
Q1:最近「この提案で喜ばれた」と感じた案件は何ですか(具体案件名まで)
Q2:大手と比べて「うちは早い・近い・柔らかい」と感じる場面はどこですか
Q3:設計が判断できる範囲はどこまでですか(仕様/コスト/納まり/工期)
Q4:判断が必要なとき、誰に何を相談しますか(相談経路)
Q5:入社した設計士に、最初の30日で体験してほしいことは何ですか
| 打ち出し要素 | できること | できないこと(注意) | 運用ルールの例 |
|---|---|---|---|
| 設計の裁量 | 提案の方向性を主導し、意思決定が早い | 基準がない自由放任は不安を生む | 標準仕様・コスト判断ラインを文書化 |
| 顧客との距離 | 反応が見え、提案の質が上がる | 顧客対応が属人化すると疲弊する | 打合せ議事録と決定事項の型を統一 |
| 現場との一体感 | 納まりが強くなり、クレームを減らせる | 現場任せだと設計の品質が落ちる | 現場定例の参加条件と確認項目を固定 |
| 地域の実装力 | 土地条件・条例・商材事情に強い | 全国転勤型のキャリアは作りにくい | 地域で磨ける専門性(耐震・断熱等)を明記 |
差別化は「良さを盛る」ではなく、「裁量の範囲・基準・支援」をセットで言語化して、誤解なく伝えることが最重要です。
採用チャネル別に、刺さる打ち出しと募集設計を変える
媒体任せにせず、最初の3行で比較軸を変える
求人媒体、採用サイト、SNS、紹介会社など、チャネルは複数あります。ただし小さな工務店が先に整えるべきは、どのチャネルでも使い回せる「最初の3行」です。ここで比較軸を変えられないと、どこに出しても大手と同じ比較に戻ります。
工務店の実務では、設計士は案件の入口から出口まで関わります。だからこそ、最初の3行には「関われる範囲」「成果の見え方」「意思決定の近さ」を入れます。失敗しやすいのは、会社紹介から始めてしまい、候補者にとっての価値が後回しになることです。改善のコツは、仕事内容の体験価値を先に置き、その後に会社情報を続ける構成にすることです。
求人票冒頭3行テンプレ(コピペ用)
私たちは、顧客との打合せから仕様決め、現場と納まり確認まで、設計が主導して家づくりを完成させる工務店です。
設計の裁量は「提案の方向性を決める自由」と「標準仕様・コスト基準で迷わない仕組み」を両立させています。
自分の提案が形になるスピードと、暮らしに近い反応を、毎案件で体感できます。
紹介会社・リファラル・SNSの使い分けと注意点
リファラルとは、社員や取引先からの紹介採用のことです。設計士は横のつながりが強く、紹介の質が高くなりやすいです。一方で、紹介は「誰が言ったか」が影響するため、魅力が属人化しやすいです。社内で語る言葉を揃えないと、紹介が増えてもミスマッチが増えます。
SNSは、設計の考え方や施工事例の背景が伝わると強いです。ただし、作品だけを並べると「デザイン事務所」に見えてしまい、実務の役割(申請・現場対応など)が伝わりません。改善のコツは、投稿に「設計の判断」「現場とのすり合わせ」「標準仕様の工夫」を混ぜ、仕事のリアルを見せることです。運用イメージとしては、週1回の投稿テーマを固定し、設計担当が写真を出し、広報が文章を整える流れにします。
- 紹介会社:要件を細かく渡し、推薦理由を文章で提出してもらいます
- リファラル:社内でEVPを共有し、紹介トークがぶれない状態にします
- SNS:作品だけでなく「判断の基準」を見せ、仕事のイメージを一致させます
面接で見極めるべきポイントと、判断をブレさせない仕組み


カジュアル面談で「期待値のすり合わせ」を先にやる
カジュアル面談とは、選考の前に相互理解を深める短い面談のことです。小さな工務店では、ここで辞退を減らせます。なぜなら、設計士が不安に感じるのは「任され方」と「評価のされ方」だからです。面談では、入社後に任せる範囲、相談経路、評価指標を具体的に話します。
失敗しやすいのは、カジュアル面談を雑談にしてしまうことです。改善のコツは、質問項目を固定し、最後に「双方の懸念」を言語化して持ち帰ることです。運用イメージとしては、面談は60分、前半30分は会社説明、後半30分は質問、最後5分で懸念点を整理します。
カジュアル面談 質問テンプレ(設計士向け)
1)得意な設計フェーズはどこですか(提案/基本/実施/申請/現場)
2)過去に一番うまくいった案件は何ですか(理由まで)
3)逆に苦しかった案件は何ですか(何が原因でしたか)
4)判断が必要な場面で、どんな支援があると動きやすいですか
5)転職で最も変えたいことは何ですか(時間/裁量/顧客距離/評価)
6)入社後30日で体験したいことは何ですか
アセスメントで「設計スタイル」と「現場連携」を確認する
アセスメントとは、実務に近い課題でスキルや思考を確認する評価方法です。設計士採用では、ポートフォリオだけでは見えない「判断の癖」が重要です。例えば、予算制約があるときに優先順位をどう付けるか、現場からの変更要望にどう対応するか、顧客にどう説明するかです。
具体例として、30分でできる課題を用意します。簡単な平面図と要望、予算、工期、現場条件を渡し、「どこから詰めるか」「確認したい情報は何か」を話してもらいます。失敗しやすいのは、設計の正解を当てさせようとすることです。改善のコツは、正解探しではなく、確認の順序と判断軸を見ます。運用イメージは、面接官が同じ採点表で記録し、面接後に10分だけすり合わせを行うことです。
- 優先順位が説明できる
- 法規・申請のリスクに気づける
- 現場とのすり合わせ前提で考えられる
- 顧客への伝え方(言葉の整え方)がある
入社後に「選ばれ続ける会社」になる定着の運用


オンボーディングを30日設計し、放置をなくす
オンボーディングとは、入社後に業務・文化・関係性へ早く適応してもらうための受け入れ設計です。小さな工務店では、忙しさで放置が起きやすく、ここが早期離職の分岐点になります。最初の30日で「相談の仕方」「判断の基準」「現場との関係」を整えると、定着が安定します。
工務店の実務では、設計と現場の擦り合わせが品質に直結します。失敗しやすいのは、最初から担当案件を丸投げし、質問しづらい空気を作ることです。改善のコツは、最初の2週間は同席中心、3週目から一部主導、4週目に小さな完了体験を作る段階設計にすることです。運用イメージとしては、週1回の1on1で「困りごと」「判断に迷った点」「改善案」を必ず聞き取ります。
入社後30日 運用ルールテンプレ(社内共有用)
1週目:案件同席と社内ルールの把握(標準仕様、原価判断ライン、申請フロー)
2週目:図面・仕様の一部を担当し、レビューで基準を共有
3週目:顧客打合せの一部を主導し、議事録の型で決定事項を固定
4週目:小さな完了体験(申請1件、仕様決め1件、現場納まり確認1回など)を作る
毎週:1on1で「困りごと・迷い・改善案」を回収し、次週の支援を決める
評価と成長の道筋を「言葉」と「行動」で見せる
小さな工務店は昇格制度が薄いことがあります。その場合でも、成長の道筋は作れます。ポイントは、評価の観点を「成果」と「プロセス」に分け、言葉にして共有することです。例えば、成果は提案の受注率や申請ミスの削減、プロセスは議事録の精度や現場との連携品質などです。
失敗しやすいのは、「頑張りを見ている」で終わることです。改善のコツは、月1回のレビューで、次に伸ばすポイントを1つに絞り、具体的行動に落とすことです。運用イメージとしては、設計責任者がレビュー項目を固定し、工事責任者も同席して「設計と現場の合意」を作ります。これにより、設計士は安心して裁量を発揮できます。
まとめ|比較軸を変え、言語化と運用で採用を前進させる
小さな工務店が優秀な設計士を確保する鍵は、年収や知名度の勝負を避け、「裁量の範囲」「成果が見える体験」「現場と一体の実装力」という比較軸で選ばれる状態を作ることです。そのために、ペルソナを絞り、EVPで魅力を一本化し、求人票の冒頭3行で伝え切りましょう。
明日から試せる一歩は、魅力棚卸しテンプレで現場の言葉を集め、求人票冒頭3行テンプレを自社用に書き換えることです。さらに、面談質問テンプレと30日運用ルールを社内で共有し、誰が対応しても説明と判断がぶれない状態にしましょう。
社内共有のコツは「テンプレを固定し、毎回同じ型で回すこと」です。言語化と運用が揃うと、採用は継続的に強くなります。









