工務店の税務調査は「売上の計上時期」「原価の整合性」「外注費の実態」「現金支出の根拠」など、現場と経理の接続点で判断が揺れやすいところが狙われます。社長や経理が頑張っていても、現場側の運用が属人化していると、説明の一貫性が崩れやすいです。
特に、現場写真・工事台帳・請求書・入金の突合が弱いと「なぜそうなったのか」の説明が後追いになります。現場の事実(写真・日報)と数字(台帳・仕訳)がつながっていない状態が、調査当日の時間切れと心証悪化につながります。
税務調査とは、税務署が申告内容の根拠を確認するために帳簿や資料を見て質問する手続きのことです。準備の目的は「正しく説明できる状態」を作ることで、完璧に整えることではありません。

現場写真はスマホにあるけど、どの工事の写真か追えないです。工事台帳も現場ごとに書き方が違っていて不安です。



税務調査って、何か不正がないと来ないですよね。普段どおりにしていれば大丈夫だと思っています。
この記事では、調査官が確認するポイントを「現場の事実」「帳簿の根拠」「社内の運用」の3つで整理し、追徴課税リスクを最小化する準備と当日の動き方を具体化します
工務店の税務調査は何を確認されるのか


調査官が見ているのは「数字」より「説明の一貫性」です
税務調査で厳しく見られるのは、単純な金額の大小ではなく「説明が一本筋で通っているか」です。工務店は案件単価が大きく、工期がまたぐことも多いため、売上・原価・請求・入金のタイミングがズレやすいです。ズレ自体は珍しくありませんが、そのズレを「どのルールで」「誰が」「どの資料に基づいて」処理したかが曖昧だと、指摘に発展します。
例えば、完成引渡し基準で売上計上しているのに、ある案件だけ中間金の入金日で計上している場合、調査官は「社内ルールが運用されていない」と判断します。現場が忙しい時期に、請求書の発行が遅れた、工事台帳の入力が後回しになった、写真が案件単位で整理されていない、といった小さなズレが重なると、当日のヒアリングで説明が崩れます。
工務店で指摘が出やすい典型パターンを先に押さえます
工務店でよくある指摘は、実務の「いつものやり方」が税務の根拠として弱いケースです。外注職人への支払いを現金で渡して領収書がない、追加工事が口頭で決まって見積の更新が残っていない、値引きやサービス工 keeps の扱いが案件ごとに違う、交際費の目的と参加者が記録されていない、などです。これらは不正ではなくても「根拠不足」と見なされやすいです。
調査官が重視するのは、資料の見た目よりも「社内で再現できる運用」になっているかです。担当者が休んでも説明できる、現場監督が変わっても同じ粒度で記録される、経理が月次で突合できる、という状態に近づけるほど、調査当日の負担が下がります。
【判断テンプレ:税務調査に強い運用かの判定】
次の3点が「はい」なら合格ラインです。
1)案件ごとに、見積・契約・請求・入金・工事台帳・写真が同じ案件番号で追える
2)外注費・現金支出に、相手先・日付・内容・現場名が1枚で説明できる資料がある
3)売上計上と原価計上のルールが社内で言葉で説明でき、例外時の処理も残っている
税務調査で強いのは「金額の正しさ」より、誰が見ても同じ結論にたどり着く運用と根拠資料です
調査官が確認する資料とチェック観点
最初に見られる「基本セット」を揃えます
税務調査では、まず会社全体の数字が見える資料が確認されます。総勘定元帳、仕訳帳、試算表、請求書控え、通帳、売掛金・買掛金の管理表などです。総勘定元帳とは、勘定科目ごとの取引を時系列で追える帳簿のことです。これらは経理側で揃えやすい一方、工務店では「案件単位の根拠」に入った瞬間に現場資料が必要になります。
準備のコツは、調査官が次に何を聞くかを先回りしてセット化することです。例えば、売上の大きい案件や利益率が極端な案件があると、その案件の見積・請求・入金・工事台帳・外注費・材料費・写真が一気に確認されます。案件別のファイル(紙でもクラウドでも)を作り、一覧で出せる状態にしておくと、当日の質問が短くなります。
| 確認対象 | 調査官の見方 | 工務店側の備え |
|---|---|---|
| 売上計上(請求・入金) | 計上時期がルールどおりか、例外の説明があるか | 計上基準の社内ルールと、例外時のメモを残す |
| 工事台帳 | 案件ごとの原価の内訳が追えるか、整合しているか | 案件番号で、外注・材料・経費を同じ粒度で記録する |
| 現場写真 | 実在性・工期・追加工事の根拠になるか | 撮影ルール(必須カット・命名・保存先)を統一する |
| 外注費 | 実態(誰に・何を・いつ)が説明できるか | 発注書・作業内容・現場名・支払方法を1枚で説明できる |
| 交際費・会議費 | 事業関連性があるか、私用混在がないか | 参加者・目的・取引先名・案件名を領収書に紐づける |
資料があっても「突合の筋」がないと弱いです
資料を揃えても、突合の筋が見えないと説明が長引きます。突合とは、複数の資料を照らし合わせて一致を確認することです。工務店の場合、売上は請求書と入金、原価は請求書と支払、現場は工事台帳と写真、というように、最低でも二つの根拠で同じ事実を示せる状態が必要です。特に追加工事や仕様変更は、口頭決定が多いほど「根拠が弱い」と見なされやすいです。
実務シーンとして、現場監督が職人に追加作業を依頼し、後日まとめて請求が来るケースがあります。このとき、工事台帳に追加内容と発生日が残っていないと、外注費の説明が「あとから出てきた支払い」に見えます。追加工事は、簡単なメモでもよいので、案件番号・内容・発生日・承認者を残し、写真やチャット履歴などの補助証拠とセットで保管しましょう。
【現場⇔経理の受け渡しテンプレ:月次突合メモ】
案件番号:____/現場名:____
当月の動き:請求(有・無)/入金(有・無)/追加工事(有・無)
追加工事の根拠:写真(フォルダ名:__)/承認メモ(保存先:__)
原価の増減理由:材料(__)/外注(__)/現場経費(__)
経理確認者:___ 現場確認者:___ 確認日:___
現場写真と工事台帳で「実在性」と「原価」を説明できる形にします


工事台帳は「書き方」より「揃える粒度」を決めます
工事台帳とは、案件ごとの売上・原価・粗利をまとめて管理する台帳のことです。調査官は工事台帳を通じて「この案件は本当にこの原価がかかったのか」を見ます。台帳のフォーマットが完璧である必要はありませんが、案件ごとに記録の粒度がバラバラだと、調査官は例外を疑います。現場ごとに、外注費・材料費・現場経費の区分と、記録する必須項目(相手先、日付、内容、数量、現場名)を統一しましょう。
失敗しやすいポイントは、現場で発生した小口の支出や立替が、台帳に載らないまま経理で雑費処理されることです。金額が小さくても件数が多いと、調査官は「現場経費の管理が弱い」と見ます。改善のコツは、現場経費の上限ルール(例:1件3,000円未満は小口、3,000円以上は事前承認)を決め、例外はメモで残すことです。
現場写真は「撮っている」だけでは弱いです
現場写真は、工事の実在性や工期、追加工事の発生を説明する補助資料になります。ただし、スマホのカメラロールに散らばっているだけでは「いつ・どの現場の・何の写真か」が説明できません。運用イメージとして、案件番号フォルダを作り、必須カット(着工前、解体、下地、配管配線、断熱、防水、完了、追加工事)を決め、撮影したらその日のうちにフォルダへ入れる流れにします。
この章では「本文+箇条書き+補足解説」の形で、現場写真の最低限ルールを具体化します。
- フォルダ名は「案件番号_現場名_年月」で統一します
- 写真名は「年月日_工程_場所_補足」にします(例:2026-01-14_配管_洗面_追加)
- 追加工事は「追加」フォルダを作り、承認メモ(紙でも可)を同じ場所に置きます
- 完了時は「引渡し一式(写真・検査表・変更履歴)」としてまとめます
補足として、写真は「税務の証拠」より「社内の説明資料」として整えるほうが定着します。現場監督が引渡し資料を作るタイミングに組み込むと、作業が増えた感覚が減ります。判断軸は、第三者が見たときに「工事の流れ」と「追加の根拠」が追えるかです。
【工事台帳テンプレ:最低限の記入項目】
案件番号:___/現場名:___/工期:___〜___
契約金額:___/変更増減:___(根拠:___)
外注費:相手先・日付・内容・金額(一覧で記録)
材料費:仕入先・納品日・用途・金額(納品書と紐づけ)
現場経費:交通費・駐車場・産廃・小口(上限ルールに沿って記録)
粗利の増減理由:____(例:追加工事、値引き、手戻り)
【現場写真ルールテンプレ:社内共有用】
1)案件番号フォルダを作成し、全写真は当日中に格納します
2)必須カット:着工前/解体/下地/配管配線/防水/完了/追加工事
3)追加工事は「追加」フォルダに分け、承認メモ(保存先も記録)を同梱します
4)月末に現場監督が「追加工事の有無」を経理へ共有します
現場写真と工事台帳は「案件番号でつながる」「追加工事の根拠が同じ場所にある」状態にすると、実在性と原価の説明が一気に強くなります
指摘されやすい勘定科目を工務店の実務に落とし込みます
外注費は「誰が・何を・いつ」が説明できる形にします
外注費は工務店で金額も件数も大きくなりやすく、税務調査で必ず深掘りされやすい科目です。ポイントは、支払先が個人か法人か、契約形態は請負か手間か、支払方法は振込か現金か、という実態の説明です。請負とは、成果物の完成に対して報酬を支払う契約のことです。現場シーンとして、応援の大工さんに日当で支払う場合でも、現場名・作業内容・日付・人数・単価が残っていれば説明できます。
失敗しやすいのは、領収書に「作業代」としか書かれていない、現場名がない、支払日と作業日がズレている、という状態です。改善のコツは、支払時に1枚で説明できる「作業記録(簡易で可)」を添付し、経理が支払処理時に確認する運用を入れることです。社内で回すイメージとして、現場監督が月末に外注費の一覧を提出し、経理が通帳・請求書と突合してから仕訳に入れます。
交際費・会議費・旅費交通費は「目的」と「参加者」が鍵です
交際費や会議費は、私用混在が疑われやすい科目です。交際費とは、取引先との接待や贈答など事業に関連する支出のことです。調査官は、領収書の店名だけではなく「誰と」「何の目的で」「どの案件や取引と関係するか」を見ます。例えば、協力会社との安全大会後の懇親会なら、開催目的・参加者・日付・会場・費用負担の考え方が残っていると説明がスムーズです。
失敗しやすいのは、レシートだけ保管してメモがない、参加者が思い出せない、現場の打合せなのに会議費の条件(少人数・短時間など)が社内で決まっていない、といった状態です。改善のコツは、領収書にメモを残すルールを統一し、経理が受領時に必須項目が埋まっているか確認することです。運用として、月末締めで経理が不足情報を差し戻すと、現場も徐々に習慣化します。
【外注費の作業記録テンプレ:支払添付用】
現場名:____/案件番号:____
作業日:__年_月_日(_日分)/人数:__名
作業内容:____(例:造作、断熱、ボード、設備手元)
支払先:____(個人/法人)/支払方法:振込・現金
金額:____円(単価:___円)
確認者:現場監督___/支払承認___
税務調査の当日対応フロー|社長・経理・現場の役割分担


当日は「受け答えの設計」で8割決まります
税務調査当日は、資料の提示順と受け答えの設計で負担が大きく変わります。調査官は、全体像→重点案件→個別支出の順に深掘りすることが多いです。社長が全部答えようとすると、現場の事実と経理の数字が混ざり、説明が長くなります。そこで、社長は方針(会社のルール)を説明し、経理は帳簿と通帳の突合を説明し、現場は工事の実態(写真・工程・追加工事)を説明する、という役割分担を決めます。
失敗しやすいポイントは、質問に対して推測で答えてしまうことです。調査官の質問は、言い方が柔らかくても記録されます。わからない場合は「確認して資料で回答します」と言い切り、資料に基づいて回答しましょう。推測で答えると、後から資料が出てきたときに説明が矛盾します。
事前に「当日の段取り表」と「回答の型」を作ります
運用イメージとして、調査の連絡が来たら、まずは対象期間と準備物の一覧を確認し、社内で準備会を1回入れます。準備会では、重点になりそうな案件(売上上位、利益率の極端、追加工事が多い、外注比率が高い)を選び、案件ファイルを作ります。その上で、当日の席順、資料の出し方、質問の受け口を決めます。
調査官への説明は、短く「結論→根拠資料→例外の扱い」の順にしましょう。例えば、売上計上の質問なら「当社は引渡しで計上します。根拠は請求書と引渡し書類です。例外がある場合はこのメモに残しています」という形です。これだけで、調査官は次に確認すべき資料へ進めます。
- 当日の質問は、原則「担当領域の人が答える」
- 推測で答えない(確認して資料で回答する)
- 資料は案件番号順に出し、出した資料は控えを取る
- 口頭で追加説明した内容は、当日メモに残す
【当日対応テンプレ:回答の型(社内共有用)】
結論:当社は____のルールで処理しています
根拠:資料は____(帳簿/請求書/通帳/工事台帳/写真)です
例外:例外がある場合は____の条件で、____にメモを残しています
補足:現場の実態は____(担当:____)が説明します
【調査当日メモテンプレ:その場で記録】
質問内容:________________
回答(結論):______________
提示資料:____(ファイル名/案件番号)
追加で求められた資料:____(期限:__)
対応担当:____ 記録者:____
当日の勝ち筋は「推測で答えない」「役割分担する」「結論→根拠→例外」の型で短く説明することです
まとめ|追徴課税リスクを下げるのは「現場と経理の接続」です
工務店の税務調査対策は、特殊なテクニックよりも「現場の事実」と「帳簿の数字」を同じ案件番号でつなげることが中心です。追徴課税とは、申告漏れなどで後から追加で納める税金のことです。現場写真・工事台帳・外注費の作業記録・領収書メモが、同じ案件の説明として揃っていれば、調査官の確認は短くなります。
明日から試せる一歩は、売上上位の3案件だけでも「案件ファイル」を作り、請求・入金・台帳・写真・外注の根拠を一式で揃えることです。その作業を月次のルーチンに寄せると、調査のためだけの準備にならず、経営管理の精度も上がります。
社内共有のポイントは、完璧なルールより「同じ粒度で残す」ことです。テンプレを使って現場と経理の受け渡しを固定し、担当が変わっても同じ説明ができる状態を作りましょう。








